絶刻 side B

絶刻

side A 

高良

martinus1111.jimdofree.com



鏡界

presented by 輪華〔占室輪〕


✉️ioan7379@yahoo.co.jp

鏡界


13 years old



うす青い空を見ていたら、何だかすべてがどうでも良くなって、夢ばかり見た。


学校にいても。授業中でも。


引っ越したばかりの、集合住宅のひと部屋で、「しごと」してても。


車の中で、「それ」が脚を触ってくるから、カッターを出した。「それ」の手を刺した。

「それ」の血は、汚いと思っていた。





2年で隣の席になった男子は、勉強ばっかり。


教科書を読んだり、塾のものらしいテキストを開いていたり。



本も読んでた。ナチス政権について。

プロパガンダの章。難しい本を読むんだな、と思う。

定期テストは毎回、500点満点なんだって。

公開はされないけど、100点の人は各教科、先生が発表する。

で、噂になる。



私は卓球部だったけど、男子部に試合だけ出る人がいるのも、知っていた。

必ず、上位入賞者になる。

それがこの人。


男子の先輩で、「お高くとまってる」「生意気」みたいに言う人がいたけど、

どう見ても先輩、分が悪そう。


先輩に対しても、彼はものすごく、冷ややかな、見下した目をした。

背が高いからか、本当に見下ろしてるし。

気が強いのは、見てすぐわかるし。




話しかけられる雰囲気じゃない。壁を作ってる感じ。

他の男子とは、普通に話してた。



彼がひと言、ふた言喋ると、周りの人が耳を傾ける。先生も。


余計なこと言わないし、当たり前のこと、正論、道徳的なことを喋る。



背が高い。きちんとしている。服装とか。

授業前に、教科書並べておく。

背筋をピンと伸ばしている。

髪の毛、触ったらさらさらしていそう。



まつ毛、けっこう長い。

隣で見てても、気づいてないっぽい。

オーラ。まわりに漂っている、彼のつくり出す色だけど、悲しみの青じゃなくて深くて、

綺麗な青。

あと、透明。白。銀。ちょっと金。かな?



「あの人クリスチャンだよ」って、しーちゃんが教えてくれた。

学校の近くの教会で、見たんだって。

だから、落ち着きはらっているのかしら。





しーちゃんは、同じクラスになってから一緒にいる女の子。



かわいいじゃなくて、美人。

先生や先輩や、他のほとんどの人には、棘を出す。

「わたしは人間が嫌い」とハッキリと言ってた。

勉強ができる人。理科と数学が好き、あとは嫌い。でも他の教科も得意。





給食いらないって。まずいし、太りたくないから。

それから「りんも、食べないね」

と言って抱きついてきた。



食べないっていうか、食べらんないんだけど、説明がちゃんと出来ない。黙ってた。




しーちゃんは、爪の縁をチクチク針で刺したり、これは普通だけど眉毛を抜いたり

(お手入れの一環)していた。


「ちょっと痛いとハマらない?」

みたいなこと言う。


わかる。うん、と頷いた。



しーちゃんといると、急に泣きたくなって泣いたりした。

しーちゃんは、泣き終わるのを待っててくれる。

それから、持ってきた漫画や雑誌を、見せてくれたりもする。



私もお姉ちゃんが読んで放置していた雑誌、“non-no”と

“egg”を貸したりしていた。

ふたつ、系統めっちゃ違うけど。



しーちゃんも読書家だった。

“ノルウェイの森”

“全ての男は消耗品である”

これもお姉ちゃんが読んでいた小説を貸したら、嬉しそう。



「りんのお姉さんに、会ってみたい」

と言ってくれたけど、お姉ちゃんは彼氏の家に泊まってて、

たまに帰って来ても彼氏が一緒だし。

会わせる機会がなかった。



“女盗賊プーラン”

というノンフィクションを、しーちゃんはプレゼントしてくれた。

かわいそうな、酷い、凄惨な回想録で、

でも強く生きていく話。…


せっかくくれたのに、途中で、読めなくなってしまった。

復讐で、男の人の“蛇”を潰す、

ってのが恐くて。






隣の席の男子、T.T君。イニシャルがどっちもTだから。



ペンを貸したら、1本壊れて返ってきた。

どんだけ筆圧強いのかしら、と思って、

ごみ箱にポイした。

私の「しごと」

は300秒で120円。コースによって違うんだけど。

300秒って、つらいのよ。

お金稼ぐって、大変なんだよ。

と思ったけど、わざとじゃないから、

何も言わずにおいた。




翌日、ペンが入った袋をくれた。

「ごめん」って。


それで話をした。


前に住んでいたところの話と、

「ナチスドイツの本、面白かった?」って聞いた。


そしたら、

「ヘルマン・ゲーリングをどう思う」


とか言い出した。

うわっ、面倒くさ。と思いながら、



「賢いと思う、だってエースパイロットだよね。

でも、それにしては心の弱い人と思う。


だからヒトラーを神様にしたんじゃない?


悪い宗教の人って感じ」


と答えた。


そうしたら、今度は目をきらっとさせて、何かニコニコし出して、

「オウムの一連の事件をどう思う」


とか言い出した。

うわっ、もっと面倒くさ。



その後は、

「薬物、特に毒物についてどう思う」

「では生物兵器についてどう思う」

… … …


この調子。ずうっと。この繰り返し。



「ね、休み時間つぶれるからさ。部活出なよ。部活の時に話そうよ」

と言った。

その日、ちゃんと来た。



基礎トレーニングには出なかった。

かったるい、って。



練習試合をして貰った。

無駄な動きがなくて、やっぱり強いなと思った。

男子のスマッシュなんて取れないし、速くて強いから危ない。男子同士でも、台から離れて打ち合う。

手加減でもないんだろうけど、ドライブで返して来た。



すっごい回転かかってる。球。


周りの音が聞こえなくなるくらいの、集中と、熱中。


視界がぎゅっと閉じられて、狭くて、でも温かい感じ。

何だかとってもエロティック。



全然そんな素ぶりじゃないのに。

どっちか、

と言ったら真面目すぎて何も、しなそうなのに。

何か。性的な人だ。



きっとじゃなく絶対、この人と最初にするんだな…

と思った。

別に嫌じゃなかった。

すぐでも良かった。




「話したいから」の理由で、家くる?

と言われた。

帰り道の方向は違う。


他の男子も行くと言うし、とりあえず二人きりじゃないし。

まあいっか、でついて行く。

二人でも良いけど。

二人のほうが、気が休まるから良いけど。




全員、普通の男子。マワされるみたいなのは、なさげ。


前住んでた地域では、そんな話をよく聞いた。

お金取られたり、爆竹投げられたり、

自転車壊されたり。


年下の男子2人に、パンツ脱がされたことはあったけど。

友達の4人目のお父さんに、海で水着で抱きつかれたこと、あるけど。

そんなの、何でもない話。



高良は

(呼び捨てしてと言うから、呼び捨てし始めた)

すごく静かな、整備された人工の湖

のような人。

元は自然の泉なんだけど、観賞用に整えられた水。という感じ。



整っててもいいんだけど、もっと水を、思うまま湧かせたらもっと、綺麗なのに。





他の男子がいると、あんまり深く話が出来なくて、ヒマだった。

眠いから、寝た。


高良の部屋に、フワフワした絨毯があったから、指でちょっと触ってたら、気持ちよくて、眠った。


家だと、よく寝れなかった。

カミソリ持ったり、カッターも小刀も並べて寝てたけど、それでも心配で、

意識のどこかが開いて、起きていた。


すごいストレスだった。頭に1コ、円形のハゲが出来たぐらい。



高良のお母さん。

細くておしゃれな眼鏡かけてて、髪の毛を緩く巻いてて、上品で、のんびりしている。




挨拶して、用意してくださったジュース、

「ありがとうございます」つって全員の分、2階に持って行った。


すげえ重かった。1回、お盆をひっくり返したので、

それからは高良、私に運ばせるのをやめた。





帰る時、送ってくれた。

何でか、手を繋いできた。


高良が「さようなら」って言うのが嫌で、

嫌だと言ったら「おやすみ」に変更になった。



もし…

私が、お姉ちゃんが彼氏連れてくるみたいに、

高良を家に連れてったり…


せめて18才くらいで、

ちゃんと高良と付き合ってるとか、

だったら…



死にたくならないかも。

夜が来るのが、怖くないかも。



そう思ったら、涙がぶわっと出て、

見られないように、走って急いで帰った。



14 years old


担任の先生が嫌い。


声が大きい、怒鳴るみたいに喋る。


しかも女子だけを、名前で呼び捨てにする。


しーちゃんは、ピアスの穴を開けているのがバレて、呼び出された。


担任は「俺の迷惑になったんだから、謝れ」

って言ったらしい。最低。


学年主任の先生とか、賢い理科の先生には、

へりくだる。最低。






高良は、その話をしたら「ふうん」と言った。


部活の帰り道、公園でポカリ飲んだ。



だいたい買ってくれるのだけど、私もお金を

毎回持ってないわけじゃない。



でも、必ず「いいよ、いらないよ」と言う。



私は1本飲めないし、350mlでも。

だから高良から、ちょっと貰うようにした。


別に同じ缶から飲んでも、気にならないし。



高良は、私に先に飲ませて、その後で高良が飲んで、もう1回こっちが飲む時は、めっちゃ見てた。

何、気にしてるんだか。






高良の家では、だいたい勉強した。

宿題。と予習。


数学を教わった。教えかたは、上手いけど厳しい。

「何で間違えられるんだ?」だって。

本気で疑問だと思ってるのね。



嫌みじゃないって私にはわかるけど、他の人には言わないほうがいいよ、と言った。






やっぱり男子だから仕方ないけど、目線が。


襟のあたりとか。


鎖骨が気になるんだな、と思う。


触っていいよ、と言ったらびっくりした目を

ちらっとだけ、した。


鎖骨じゃなくて、指とか手の甲とか、手首(主に骨)を見たり、触ってた。


私は理科準備室の骸骨か、と思う。


他の人間、で、しかも女子の体のつくりへの興味、だけに見えた。

ほんの少し、エッチ目線はあるけど。

高良のは、全然嫌じゃない。




好きな人だからかな。


高良も、私が好きだからかな。だからかな。


あと、allエロじゃなくて、

「静脈透けてるぅー」とか、なんか芸術目線だからかな。

この人、血の色というか、血管の色がキレイとか、そんなこと考えてる。まず。




変なの。


私も高良に触りたい。


背中におでこをくっつけたり、腕を引っぱって、ぶら下がるみたくやったり、

膝に座ったりした。


少し固まってた。


膝に座った時は、高良の両腕を持って、私のお腹の辺りまで手を持ってきて、組んで貰った。


こういうふうにしてね!の意味。

こういうのが好きなんだよ、安心するから。

とっても温かい…


人の体は、あたたかい…




涙がじわっとした。隠した。ずっと目を開けて、まばたきしないと目が乾くでしょ?

すると、涙をごまかせる。



あ、瞼を開けまくってたら、もっと涙が出てしまうけど。



高良は、一回こういうふうにしてね、の仕草をしたら、次からは覚えてて、してくれた。







しーちゃんが、「T(高良の名字呼び捨て)と付き合ってるん?」

と聞いてきた。



「うん。でも好きとか言わない」


しーちゃんは、「付き合ってからヤりなよね」と言った。



それは、お姉ちゃんにも言われた。


コンドームぽいっ、と投げて渡された。



「あたしが最初にヤったのは中2だ、だからあげとく」って。




「最初は好きな男としたほうが良いわよ。別に最初の男が、その後に影響するとかは、幻想と思うんだけどね」


… … …。



うーん、ちょっとは影響すると思うわ。



「簡単にヤらせてはいけない」

「付き合ってるか確認しなさい」

「ガキがガキ作るんじゃないよ、傷は女にしか残らねえからな」



立て続けに名言を、たばこの煙と一緒にパカパカと吐き出して、

コンドームの使いかた講座が…

姉。18才。



「根元まで、しっかりな!洩れるから」



…。






しーちゃんとお祭りに行った帰り、しーちゃんの彼氏に会った。


学年で一番、大きい男子。横幅も。


高良より、背が高い。


男子って、体格が違うと喧嘩しないというか、遠慮しない?


その子、D君は敬遠されてた。



高良にも、賢すぎて敬遠する人たちはいた。


あ、でも高良はD君と普通に話す。



遠慮とか、怖がるなんて全然ない。


名字を呼び捨てするし。




D君は問題児ではないけど、勉強はとりあえずしない。

不良っていうか…、

20才くらいに見えてしまうし、パチンコ屋さん行くって言ってた。



ごめん、私も義理父に連れられて、スロット台、打ってる。


と言ったら、D君とその話で盛り上がり?

?盛り上がった。




しーちゃんに悪いので、あんま話すのやめた。




そのあと、しーちゃんから

「Dがりんとエッチする夢みた、つってる」

とか聞いた。



は?

なにそれ。


怖いじゃん。でかすぎて。


だいたい、しーちゃん痩せてるのに、

痛いよね。痛くないのかな。痛くなるよね。


しーちゃんは、それからD君と別れて、

大学生にナンパされて、本屋で。

美人だから。


付き合ってたけど、犯罪なのかな。

恋愛してたら、14才と19才は

していいのかな。





D君は、たまに話かけてきた。

だから、高良のところにすぐ、行くようにした。



D君。高良に

「真面目な顔してヤりまくり」

とか言ったぽい。


うざ。






高良は気にしてなかった。



学校の図書館とか、体育祭準備中、体育館の倉庫で、手を繋いで話すくらい。


まあ、脇腹とか、膝、スカート丈が膝丈だったから、そのあたりとかは、触ってた。


たまに高良が


はむっ、とする時があった。

唇だけで。足とか。指とか。

たまに舐めてた。肌ね。




それが一番、触られてる感があった。






高良の家に最初に泊まったのは、

生理が来ちゃって、

久しぶりに。


1年の時は、半年に1回だった気がする。

半分止まってたようなもん。




高良の家で、おやつやごはん、頂いたからかしら…。



それはそうと、すっごいお腹痛くて、歩くのも難儀で。


血がいっぱい。


この時は、高良のお母さんの生理用パンツ

(新品じゃなく)

と、ナプキン借りた。

ナプキンも、いっぱい。



高良のお母さんが、熱を計ってくれた。


37.7℃



風邪じゃなくて、生理が来たら、熱も出るんです、と言った。



病院行く?とおっしゃった。

ぶんぶん首振った。寝てたら治るもん。



おうち、誰もいない?

と聞かれた。いない。



お母さんは、私のうちに電話してた。

いやー、借金取りから電話くるから、

電話線抜いてあるんです、

とは言えない。




高良が、「うちに泊めれば」

と言った。


真剣な表情で。

エロ目的ではないのね。


心配してくれているんだ。




高良のお父さんが、その日は夜10時過ぎに

帰ってくるから、そうしたら車で送ってもらおうか、



それまで安静にしててね


になった。



高良のお母さん、免許あるけどその頃は、

車なし。


タクシーって話も出たけど…

途中で私は寝た。


客間がなんちゃら…

と高良が言ってた。





こんこんと眠った。

次、起きたら朝だったけど学校休んだ。



高良が、すっとんで帰ってきた。



客間、客室。

二階の使ってないお部屋のベッドで、

眠った。



シーツがつめたくなかった。

つめたくないシーツ。

毛布が、ぶ厚かった。

いい匂いした。


毛布に隠れて、静かに泣いた。


高良のお母さんの手。

おでこに載せてくれる。


体温計ってくれる、

毛布直してくれる、


高良がいなくて、お母さんだけの時、

私はぼろぼろ泣いた。



お母さんが撫でてくれた。

そんな優しい手、知らない。

うちのママ、パパ死んでからは手も繋がなかったし。






12月に、高良の部屋でベタベタしていた。


「ところで、俺たちこれ、付き合ってる?」

とか言った。


…。



ちょっと呆れた。



「じゃあ、今日から付き合ってね」


って言っておく。記念日とか言いそうだもん。






その日ではないけど、オレンジジュースこぼしたら、スカートもブレザーも拭いてくれた。

一生懸命。


制服のリボンにも

かかっていた。


リボンを取ったら、首筋あたりを高良は見ていた。


人の唇の位置って、探すのが難しい。


私からキスしたような気がするけど、

高良も待っていなかったから、同時かも。





自分からぽいぽい脱いだ。だってジュースついてるし。




高良は、なんか、けっこうゆっくり脱いでた。迷ってるっぽく。


嫌なのかしら、と思ったけどちがくて、


色んなことを頭で考えてる。



触ってると大きくなるだとか、高良の大きさはもう触ったことあって、知ってた。


痛そう、ってか絶対痛いし、痛いよなー、

無理、がんばろう。

と思う。

だってこっちのサイズに合わせて、切るわけにいかないもんね。




最初は指も入んなくて、高良の指は、ピアノやってるからか、指に関しては細い。

それでも。


でも痛い。

今思うと婦人科医ぽく、「はい力抜いてね」

って感じ。高良。



けっこうずっとしてて、3本まで頑張った。

だって本番、本番ってか、

それくらいの大きさ、いや太さか。なんだもんよ。




痛かった、予想と、体感はちがう。


でもあっさり終わった。


そんなもんか、と思って、早く次したいな、

いつかな、と思ってた。



血がすごく出た。



高良が、ジュースと一緒に拭いてくれた。



15 years old



夜。

真夏の夜だったけど、高良の家(2F)は、

窓を閉めてて。


エアコンが18℃くらいで、寒かった。

だから、高良の冬服のカーディガン着た。


高良のお母さんが買ってきてくれる、

かわいい感じのお洋服(お嬢系)は、

実はちょいちょい、着るのに勇気が必要。


なので、高良のおうちの中だけか、


お父さんが本屋さんやどっか、少しだけ連れてってくれる時、


または高良と図書館行くとか、そういう時

だけにした。



高良の服を着てると、何だか安心する。

匂いが。

洗剤の匂いじゃなく。


男子の匂いなんて、ムリな人はマジで無理。なのだけど。




高良の膝の上で、寝そべって歌番組を観ていた。

高良は観てなくて、テーブルの上で

勉強してた。

もう高校生の数学の問題、解いてる。



私は「しごと」しなければいけない、

と考える。

高良の家に来るようになってから、

それからエッチするようになってから、

とにかくやりたくなくなった、「しごと」。



おっさん達を、電話の相手しながら、抜いてあげる作業。



当たり前だけど、たとえば高良のお父さんみたいな、

本当に賢い人は、そんなのに電話しない。



エセインテリみたいな人は、お客さんでいる。

そんな人は、ふつうの喋りの時間が長いから、

楽なのか、そうでもないのか、わかんない。



私は、しーちゃんには、この話をした。

そしたら、「りんは向いてる」

と、しーちゃんは言った。


しーちゃんも、やりたいと言った。


しーちゃんが、やるようなことじゃないわ。





高良が……


義理父や、

電話のお客さんのように、


自分の手でして、出す

風景は、見たくない。


一人でいる時、したとしても

みえてしまう。




私は小さい時から、今ここにないもの、

いないはずのもの、人、人の様子

が、みえたりした。


霊能力、といわれるってのは、

本やTVでわかった。


TVには、でも本当にみえてる人と、全然みえてない人と、半分くらい。みえたりみえなかったり、って人も出てるんだな

と思った。


本当に沢山みえてる人は、少ないのが

わかった。



高良は、みえてる人。

でも、気にしてない人。



外歩いてて、黒っぽい怖い霊がいたら、

私の手をいつもよりぎゅっと握って、

早足になって、通りすぎる。



顔が崩れているような、霊がいた時は

みないようにしてて、

すれ違う時、避けてた。

私にも、手を引っ張って避けさせた。



直接は、高良に「今の…」って

話しかけてない。

話したくなさそう。


でも、みえてるんだなってわかった。



高良の行動は、守る行動だったから、

嬉しかった。

あ、守ってくれるのか

と思った。





義理の父に次に会ったら、

「しごと」しないことで、

怒られるんだろう。


怪我しそうな予感があった。




嫌だな、と思った。心の中で、はっきりと。

今まで、はっきりとは思ってなかった。

心の中でも。

だって意識したら、苦しいもの。



涙がつたって、頬を過ぎて、耳に入って、

髪に届く前に、高良のチノパンに染みをつくっていく。


高良はしーちゃんと同じで、

何で泣いてるのかとか、聞かない。


今までは、撫でるだけだった。


でも、下の部屋にお母さんがいても、

お父さんがいても、

撫でてる内に、「ベッド行こう」

って言うようになった。



したくない時もある、でもいいや、

だって夢中になってると、

他のことどうだってよくなる。



まだあんまり、高良は力をいれないというか、気をつけて、そうっと触ったり動いたりだった。

陶器やガラスの置き物か、なんかだと思ってる。

それで、最後くらいだけしか強くしない。

それじゃわからないし、気持ち良くないし、

足りないから、

そう言った。



いろいろなことはしたけど、二人で遊んでただけで、あんまりエロティックにならない。

ように思ってた。

「ここは、こう」って話しながらしてたし。


高良は、実験と観察と考察、みたいな感じ。


異性の体は、わからないから理解するために、見る。試す。


どこがどうなって、快感と繋がるのか、

を見て、触って、試す。


ペンケースの中の、一番太いのが修正ペンだった。

下の部屋から、お父さんのウォッカ持って来て、テイッシュに垂らして、ペンを拭いて、って消毒。


で、入れてみて、あちこちぐりぐりして、

気持ち良いか悪いか、の確認。


リアルな図を描いてまで、メモる高良。


お外では、蝉が鳴いている。





抱き合ってると、

しにそう、しにそう、いつも思う。

一回、死ぬ気がする。

それで、また戻ってくる感じ。


リセットして、すっきりな感じ。


でも、してないと、また不安で満ちる。

不安じゃなくて、安心で満ちたい。




不安は、いきなり来たから

不安が来て、息出来なくなった時、

心臓痛い時、

隣に高良がいるのなら、

ソファーでも床でも、2階のお風呂でもトイレでも、

キスしたり、高良の指や首や耳を舐めたりして、

すぐして!と言った。


普通に抱きしめてもらうとかじゃ、足りない。




高良の家が、明るくて眩しくて、

夢の世界みたいで、

生理中じゃなくても風邪じゃなくても、

熱があるような、頭がふらふらするような、

不思議な感じがあった。



仕方ないから、家に戻らなきゃの時がある。

学校の物を取りに行ったり。


長い階段をのぼって、


ママと義理の父の家は、向かいのドアの向こう。

右側が、お姉ちゃんと私の部屋。



凄く嫌なんだけど、お姉ちゃんの部屋で、

義理の父が一人でやってる時がある。



見てろとか言われるから、気持ちが悪くなる。

お姉ちゃんの下着とか、持ってたりする。


それは、後からお姉ちゃんに教える。



お姉ちゃんのほうが大変で、

意味わかんないけど、ベッドにゴキブリ置かれたとか言ってた。

意味わかんない。



制服だと触ってくる。

私服で、スカートだとやっぱり触ってくる。

だから、家では体操着のジャージを下に履く。



物を投げられるとか、フォークで刺されるとかのほうがマシ。



口に入ってた物を食べさせられるとか、

キスしろとか、

AVやスプラッタ観せられるとか、

エロ本読ませられるとか、

官能小説朗読ませられるとか、

それで出すまで見てろとか、

それよりはそれよりは、


わかりやすい、暴力はマシ。


だって、痛くない。

最初は痛い。

わけわからなくなって、痛くなくなる。


一回包丁で切られて、その上からまた切られたら、見た目はひどいし、痛そうに思えるじゃない?

ちがう。二回目のほうが、痛くない。


脳から、痛くないと感じる物質?が出るらしいの。痛みを鈍らせるの。

そうしないと、原始時代には逃げたり出来ないもんね。



でも、冗談でしょって思ったのが

お金を稼がないのは、裏切り者

と……言われた時。

何か変。裏切りって、誓いや約束が最初に

あるはず。

私は何も誓ってないし、約束もしてない。


変だなと思って考えてたら、革のベルトが出て来たから、

それ普通、牛を追う時のレベルじゃない?

ちょっと勘弁してよ

と思って。



やっぱり二回目くらいから痛くないんだけど、

わりと平気かな、くらい。



それより、高良が見たら……


泣くとか怒るとか超えて、殺しに来るんじゃないか

と思って。



それよりも、死んだパパが見たら……


パパが見てると思ったら、

胸が潰れるくらい悲しくなって

泣いた。

涙で曇って、目が見えなくなった。





高良のお父さんとお母さんは、いつも優しかった。

人んちの子、に接してるからじゃない。


ここにいる、ひとりのただの子供、を

愛してくれる。

お花にも、草木にも、

命が入っていることを知っている。



義理の父は、人間の皮を被った、得体の知れない悪魔。


悪魔って、悪い人間のことよ。


西洋の本に出てくる悪魔は、本当は妖精だったりするから。




高良の家で、お風呂借りて、

湯舟にいる時、しょっ中

おかしな具合になった。


私誰だっけ、って。

手を見る。私の手じゃない…

膝や顔を触ってみる。

感覚がない。


小さい時から、感覚が突然、抜ける時があった。

誰だっけ、って自分自身を思う時もあった。

小3くらいから、ご飯が家からなくなったあたりから。


お風呂は、傷が痛くなる場所。だから、

体の感覚を切り離してるだけかな、

と思う。


深く考えないようにする。次の瞬間、名前がわからなくなる。

怖い。動悸がする。

誰、これ、誰。と思ってる自分が誰。


けど、いつの間にか忘れてる。その、恐怖に陥ったことを。




高良が、ちょっとドアを開けて名前を呼んでくれたりしたら、急に思い出す。


だから、名前を言って、名前を呼んで、と

何回も何回もお願いした。

エッチ中にも。それを、高良はなんか

盛り上がる風味くらいにしか、

思ってなかった。





高良は、私を見て、好きで好きでしょうがない

みたいな顔をする。


好きっていうか。


助けたいとか、守るとか、ずっと一緒にいたいとか。そんな想い。



好きで、好きで、しょうがないっていう

高良の顔は、苦しそうな顔。

困ったような顔。


笑い顔じゃなくて。

でもとっても、優しい目。



私がいなくなったら、死んでしまうくらいにもっと求めて、

もっと好きになって、離れないでね

と思ってしまう。




私がいなくなったら、死んじゃえばいいのに。

そうしたら、高良の愛が真実だと、

心が100%思えるのに。




私は、人っていつか嫌ったり、

好きだった人やものを、簡単に嫌いになったり、

意見を翻したりするんじゃないか、と思っていた。


油断したら、私、高良がいなくなったら、

死んでしまう。



だから、あんまりこれ以上好きにならないように、

気をつけようと思った。











16 years old



×


とても嫌なことが起きた。

あんまり言いたくない。


義理の父が風邪引いてて、

飲んでたコーヒーの、マグカップの中に嘔吐した。

コーヒー混じりの

吐瀉物。


飲めと言われた。



それとは別だけど、お風呂場で、

義理の父は

おしっこをする時があったのだけど

私はそこにいて、かけられていた。


液体ならまし。

液体ならまだまし。



私は汚くなっていく。

その後のいろいろなことは、もう話したくないし一生話さない。絶対に、誰にも。

神様にしか、話したくない。


神様なら、聴いてくださる。


神様なら、絶対的に抱き締めてくださる。


人間は怖い。





バイトを始めた。高校は、気づまりだった。


話の合う人がいなかった。


当たりさわりない会話は、できたけど。


高良と同じ学校に行きたくて、勉強して

ようやく入れた高校。

でも普通科。

高良は理数科。


理数科の人は、男子が圧倒的に多い。


この世のほとんどの人間は、バカばっか。

って顔してる人が、いっぱい。


彼らは、だいたいがお医者さんになる。

地元の大学の医学部か、北海道か、東北大の医学部。


それから弁護士か、どっかの研究員か、

官僚になる。


政治家になったり、社長になったり、


会社の重役になる。


理数科の生徒に対して、学校の先生達は、

「彼らは未来を動かしていく、指し手。


君たちは駒」


とか言った。君たちってのは、普通科の生徒のこと。

学校は、カースト制度。


高良は、その中でトップなのだから、

私は全然ダメだなと思った。


高校に入った時点で、差がわかってしまったの。


学校も、社会も、狭い箱なんだけど、

その箱の中で

つまらない取り決めがあって、

区分けがあって。





しーちゃんは、私立の学校に行った。

自由だと言った。


勉強面は厳しいと言われている、その私立の高校は、

しーちゃんにとっては楽々で、

テスト前も勉強しないけど、点は取れるよ

と言っていた。



しーちゃんは、中学の時は高良と同じ理数科に入れるくらいの、成績だった。

でも私立にした。


しーちゃんには、かなり年の離れたお兄さんがいた。


会ったことない。お兄さんは、もう就職した、と聞いた。家にはいないって。



お盆とかにお兄さんが帰って来ると、

しーちゃんは、その実のお兄さんと、

性的なことをしなきゃいけないらしい。


しーちゃんは、彼氏がいても

お金をもらって、見ず知らずの男の人と

ホテルに行く。

行ったラブホの、変わったところを

教えてくれた。


プレステがあるラブホは、遊べる。


カラオケがあるラブホは、意外につまらない。


ウォーターベッドがあるラブホ。


天井鏡張りは、笑ってしまった。

など。






お姉ちゃんは、さっさと結婚して子供を産んだ。19才だった。

わりと、きちんとしたお家にお嫁に行った。



旦那様は

地元中心に、工場で食品を作って、

各地に卸してる会社の、あと取り息子。

ということだった。

彼は24才だった。でも、お姉ちゃんがいないと、何も出来ない感じだった。甘えんぼうな感じ。



赤ちゃんは、6月に生まれて、とても小さかった。




お姉ちゃんはお嫁に行って、義理の父から

逃げ出した。


ターゲットが、私に絞られてしまった。


だから、バイトしまくって

家に帰らないことにした。


高良の家だけでは、申し訳ないから、

バイト先の先輩の家に行った。



大学生で、一人暮らししている女の人。


もう一人、22才の今で言う、フリーターの

男の人と仲良くなったけど、

たまに車で送ってもらうだけ。



しーちゃんの家に泊まる日もあったけど、

やっぱり毎日は申し訳ない。




何人かで、カラオケに行って

一晩中、歌う。

眠い人は、寝る。

朝の5時に、カラオケルームが閉店になるから、駅で少し休んで、学校に行く。


学校に行ったら、保健室で寝る。



高良は、すごく心配していた。


心配してくれてたけど、だからこそ、

ものすごく口うるさくなった。



数学と化学、赤(点)つづくと

留年になるから、教えるとか。



ルーズじゃなくハイソにしろとか。くつ下。



ちゃんと食え、飲め、



髪、茶色過ぎるとか。バイト先ではOKだもん。



毎日帰って来いって言われたけど、

私の家じゃないんだもの。


高良の家を、私の家にしてはいけない。


だってこのまま甘えてたら……


甘えるだけで、何も出来なくなる。


頭を空っぽにして働かないと、

きっと私は病気になる。


恐ろしい闇だけで、頭が埋めつくされて、

いっぱいになる。



高良、高良

大好きだけど


大好きだから

一緒にいない方がいい。



私みたいなのは、高良には合わない。

そっとしておいて。






だんだん…


ちがう、たまに。


高良の手が、恐いと思うようになってきた。


寝てても、関係なく触ってくるのは、


同じじゃない?

義理の父と。



ちがう、ちがう、だって高良の手だもん。

大丈夫、大丈夫。


と思うんだけど、

我慢することが多くなってきた。



高良は、首を絞めるのが得意というか、

好きなのだけど、

それは苦しい。途中から気持ちいい。


苦しい間、高良が恐ろしい。

高良は、殺せるんだよ、私なんて簡単に。

片手でも。あっさりと。



虫かなんかになった気分。



高良の遊び道具かなんかに、なった気分。



「苦しそうな顔がたまらない」みたいなこと、言われる。

は?何それ。

じゃあ代わる?


私が逆に、高良を苦しませたい。



でも、首絞められながら、激しい律動に耐えてたら、

ふわっと意識が飛んで、物凄い気持ち良くて、

何これ…………

って思ってたら、もう糸が、

バイトとかしている普段の私との、糸が遮断された気がした。


面白くて、あの気持ち良さがまた来るかどうか、知りたくて

高良にもそれを伝えて、

何回もしてもらった。



糸を切ってほしいのか、

それとも繋ぎ留めてほしいのか、どっちか

わからない。



繋ぎ留められた先で、糸が切れる感じもするけど、

糸が切られた後で、繋がってる感じもある。



高良は、

「セックスで得られる快楽は、擬似死」

と言った。


高良は、私のわかりにくい感覚を、

全部感じ取ってから、ひと言でまとめてくれる。



「りんは生きようとしてるから、繋ぎ留める」

とも、高良は言った。



生きようとしてるかしら。

本当かしら。


自分のことが一番、わからない。





高良から、離れることを考えていた。


間違いなく、将来邪魔だもの。




しーちゃんじゃなく、ゆうちゃんって子の

お父さん、大きな不動産会社で、何か偉い人

だった。



相談して、アパートを探してもらった。


新幹線が通るところの下だから、

お家賃が安かった。


けっこうキレイな物件だったけど、3万円くらいかな。


バイトでも全然、やってける。

学校辞めたら、フルで働けるし。

食費かかんないし。どうせ食べられないもの。



たまに電気やガスが止まるような家で、育ったから。

水シャワーでも平気。

明かりがなくても、暗いところでも、見える。

光熱費だって、削れるわ。



バイトで貯めていたお金を初期費用にして、

アパートを借りた。

まだ学校辞めてなくて、学生証があった

から、勉強の為の部屋

という名目で借りていた。



ゆうちゃんのお父さんが、全部そういうふうに整えてくれた。

義理の父が保証人だった。

一応会社員だったし、

一応、義理の父の実家の、名義人だったから

審査は大丈夫だった。



合鍵を渡せと言われた。

何しに来る気?

合鍵は渡さずに、夜逃げみたくして引っ越した。



引っ越しというか、荷物を運んでくれたのは

バイト先の22才の人で、

レンタカーを頼んで、運転してもらった。



レンタカーのお金とか、お昼ご飯代とか、

出してくれようとして、お断りしたのだけど…



「付き合って」と言われたから、

返事をちょっと待っててもらった。





ママとたまたま連絡が取れて、その時ママは、

なぜか山のほうで仕事してて。


「学校辞めたいんだけど」と言ったら、

すーっと運転して、来てくれて

一緒に学校に行った。


担任の先生には、「学校辞めたら人間として駄目になる」

とか言われた。もっといろいろ。




何か………

私の場所じゃなくて………

どこも、かしこも。


高良の家の子供では、ないよ。私は。


高良の彼女になる子って、もっと真っ当な、

ちゃんとした家の子

だと思う。



高良は、物珍しさというか、

好きな時にいやらしいこと出来る「女」

なら、まあ誰でも良いんじゃないかな。

最低限、どっかかわいいと感じる部分が

あれば。

あと、痩せてて骨っぽい感じの子ね。



そうじゃないなら、なぜ、

倒れそうにフラフラなのに、無理矢理でも

エッチするのか、わからん。



私が吐いてるの見ても、背中撫でながら、

吐いてて苦しんでるのを見て、

ああヤりたい、ってなってる。

なんで、そうなるの?





ママに学校出た後で、

「ありがとう」って言った。

何が?

って言われた。



パン屋さんと、カフェが一緒になったような

お店で、スープセット食べた。

ママは、

あんま喋らなくて、

この人、私に興味ないんだなー

と、改めて思う。



駅でバイバイした。



雪はまだ降ってなかったけど、暗くて、寒くて、怖くて、死にそうで、死にそうにひとりぼっちで、

きっと今死ぬほうが、人生ちゃんと生きるより、ずっと楽なんだろうなと思った。


生きるのは、死ぬより難しい。


この駅の中だけでも、せわしげに歩いてる人たち全員が、一生懸命生きてるだけだった。

意識しないで、一生懸命に。


難しいことを、簡単に出来ている人たち。




高良は、私を探してるとわかってた。


PHSの電源は、オフにしないようにした。

そのベルの音は、生きてて、生きてて、

と鳴っていた。



高良。


ごめんね。どうしよう。離れて良かったのかな。


説明出来ないから、話せないよ。

離れなきゃいけない、今は。



私は甘えてるから。それを許せないから。








17-18-19 years old



毎朝、小さいじゃがいもを二つ、ふかす。


なんにもつけず、ゆっくりと食べる。


お茶を飲む。



コーヒーをずっと飲めなかったけど、ブラックコーヒーってけっこう、甘いんだなあ、

味わうと。豆だから?

と、気づいた。





高1の時は、レストランで働いていたけれど。

全然、性に合ってなかった。

素早く動けないし、卓番(テーブル番号)と、実際の位置が一致しない。


最後まで、Cエリアのテーブルの順番、

覚えなかった。あ。Bエリアも。




その後、大型のスーパー、

業務用の食品を扱うところ。

そこで、レジと品だしをやって。




レジはすぐ覚えて、速いと褒められたんだけど、外国のお店のように、お客様が大きなカートで、ものすごい数の品物を買っていく。



レシートは、私の身長より長い。くるくると手に巻いて、畳んでお渡しする。



レジ、速いのはいいけど、めっちゃ間違えた。

12缶セットなのに、1缶の値段で打ってたり。

カード払いのお客様に対して、品数を間違えて打ったら、サービスカウンターで

やり直し。



店長は、ミス連発しても怒らなくて、

私がお昼を食べないことなど、心配してくれた。

大検を取るために、高校行ってた時の教科書、休み時間に見てた。

ラウンジ内で、飲み物を買ってくれた。



短期だったけど、掛け持ちでパチンコ屋さんの掃除もした。

時給が良かったのと、アパートの近くだったのと。


パチンコ屋さん、嫌いだけど。


たばこの吸い殻とか、コーヒーの飲み残しとか、それらが混ざったやつ、汚かった。


男性用トイレ。汚かった。


便器も、ゴム手袋邪魔だし、時間無駄だし、普通に素手+雑巾で拭いてた。きつかった。



レストランの時にもなったけど、洗剤負けで手が、火傷のようになった。


痒いし痛いし、真赤で爛れてるし、

皮膚科行ったら、いかにも変なおじさんな

お医者さんに

「脚は大丈夫?」って脚触られるし、脚で便器拭いてないから。大丈夫なんだけど💢



3ヶ月くらいで、辞めなきゃいけなくなった。一緒に働いていたおばちゃんが、

仲良くしてくれてたから、寂しかった。


爪がそれから2年くらいは、波打って生えてきた。業務用の洗剤は、とても強力みたい。






義理の父の実家近くの、小さな町を探検していた。



近くに義理の父の母、つまり義理のおばあちゃんがいて、

お世話をしに、通っていた。


爪を切ったり、ご飯作って食べさせたり、

お風呂は、その地域のサポートで、ヘルパーさんが来ていた。


老人ホームの集まり、にも時々行っていた。

おばあちゃんは、床ずれが出来るので、

クリームをよく塗ってあげた。






一つのビルに、不思議なお店があった。

アンティークのお店。



昔のガラス瓶とかは安かったけど、

掛け軸や器は、0いくつついてるのか、

数えてもよくわからない。



その中で、明治時代のお医者さんのトランクがあって。

茶色と黒。茶色が素敵。丈夫な革。

本を入れて、部屋に飾ったらかわいいなと思った。



2万円くらいで、買ったはいいけど、

けっこう重くて、大きい。

お店のおじさん、社長さんだけど、

車でアパートまで送ってくれた。


遠いのに。


お店にいる間も、車でも、いろいろな話を

した。

哲学や、宗教ぽい話。

世の中の、不思議な話。


美術やクラシック音楽の話。


ちょっと、高良を思い出した。

高良は、こんな話が好きだから。



社長は、高良にタイプが似てるかも。


普通に考えて、高学歴なのに。

ある仕事(かなりエリートと思う)を辞めて、

ヨーロッパから日本に戻ってきて、

骨董を扱い出したんだって。



何ていうか…

「ドロップアウト」を経験している人だから。

安心した。



私が、スーパーで働いてることを変と言った。

変って…。


「君には似合わない」みたいなこと。

仕事に似合う、似合わないってある?

ま、あるか。

私が服のショップ店員できるかって言ったら、

できないし。

警察官になったら、警察犬に追っかけられそう。

賢い犬、怖いもん。





「うちの店にいらっしゃい」


って言って貰えて、

古いものが持つ記憶、匂いが好きだから、

あと

求められたことが嬉しかったから、

二つ返事をした。





高良のことを思い出してしまったけど、

いろんな時に思い出していた。


たまに電話が来たけれど、

PHSごと変えた時、番号も変えた。



一人暮らしになってから、レストランの時の先輩(22才)と付き合って、

その後、スーパーのバイトの20才の人と付き合った。




22才の人とは、いつのまにか別れてた。


20才の人は、他の会社に仕事が決まって。

そしたら、そっちで二股状態だったので、

嫌だから別れた。

私が勘づいてるの、不気味がってたな…。

人の携帯なんて、見ないわ。

見なくても、わかるのよ。




スーパーを辞めることになったけど、まだ

残り2週間くらい勤める。


その間、一緒に閉店まで働いてた人がいて、

この人が25才だった。

公務員試験受けるから、学校行きながらバイトしていた。


時々、送ってくれていた。もうバイト辞めるからか、毎日送ってくれた。


寡黙な人で、何にも言えない人。


だから、「寄って行きますか?」って聞いて、部屋に来て貰った。


お茶っていっても、私がその時飲めたのは、

麦茶かほうじ茶か、うすいブラックコーヒー

か、紅茶。

紅茶は、ダージリンかアールグレイが好きだ。

ミルクは、入れられなかった。お砂糖も。



紅茶淹れてたら、座ってたその人が、

おいでおいでした。


その人の膝に座った。高良を思い出した。

その人も背が高かったから。



真面目な人だったと思う、だから

心配をすごくたくさん、

たくさんしてくれた。


どうして傷がこんなにあるの

と言われた。

説明できない。したくない。


泣いたら、もう聞かれなかった。



電話もしょっ中来たけど、

話したくない時がいっぱいあって。


私は、その人を好きじゃないのに、

好きなふりをしていたので、

息が詰まった。




高良と、長く、近い場所、同じ場所で過ごしたことは、やっぱり影響がありすぎた。


本読みながら、ご飯食べる人見ると、

高良はしないなぁ…

とか。


イライラして、大きい声出すような人だと、

もう嫌だ。怖いから。


高良なら、しないのに。

中学生だった高良のほうが、よっぽど大人だった。

20代でも、男の人は子供なんだなと思った。



イライラをコントロール出来ず、人に当たる人は、子供。

無理だから。怖いから、もう部屋に入れないようにした。

許したら、エスカレートするもん。




骨董店で働き出したら、楽で楽しかった。


大人の男の人が多い。


私は掃除だけして、お客様のお話を聴いてるくらい。


簡単なお帳面はつけたけど。



それで、売れたら、お給料がその月ごとに

違うけど、たくさん貰えた。



「いてくれれば、いい」と社長や、

お客様に言われたから、有り難かった。




お見合いの話が、なぜか3件くらい来た。

お客様を通じて。


25才の人から、逃げてる時だ。

逃げてたというか、

彼は心配しすぎて、だと思うのだけど。


…。

嫌だった。




“お見合い”で

28才の人だったか、会ったけど、

この人は、嘘を言っていた。経歴や、実家について。


でも、ものすごく好きになってくれた。

でも、それって初めて、異性とちゃんと話したから、だった。


手を繋いでいいですか、キスしていいですか、

って聞いてくるから、

「聞かないで、して」と言ったら

何もして来なかった。



面倒くさくて、こっちからした。したくなかったけど。して欲しいと思ってたから。


エッチは出来なかった。私が、したくなかった。


お姉ちゃんに話したら、

「男をもてあそぶんじゃないよ」

と言われた。


もてあそんでないもん。



社長に、彼の経歴のことを話したら、

「嘘があるから、君は彼にはやれない」

と言っていた。

社長は、お父さんのようだった。



もう一人、もうおじいさんで、

けれどかなり、お金持ちらしかった。

この人と長く会っていたから、もう1件は

お断りをした。



もう奥様が亡くなって、お子様も自立して、

独りだって。


広いお屋敷で、独り。


お屋敷、行ったけど、半分が森みたいな。

敷地内。


ちょっとしたお城と思ったけど、その洋館を。

ここで暮らしてたら、うつ病になるよなー…

と思った。

森だから、生い茂ってて、陽が当たらなくて、暗い。



おじいさんは、孤独だった。


お店以外でも会ったし、着物や昔のお人形を

見に行ったり、

宝石の展示会にも行った。



私の部屋にも来て、一緒に甘い寒天を食べたりした。

あん蜜と、ちょっとちがうやつ。


それくらい。


お話をたくさんした。




結婚をもしするのなら、女性として見るよ

と言われた。

だから、別に変なことはしてない。

結婚してないもの。



かさかさの手に、クリームを塗った。

おばあちゃんにするのと、同じ。

おじいさんは、目を細めてた。



それより、どんどん何も食べられなくなっていって……



食べたくなくて、

鏡で上半身を見たら、

骸骨というより、小魚、という感じ。



ふらふらして倒れることが、前より多くなった。

生理は止まった。



あまりにも具合悪くて、病院に行ったら

入院したほうがいい、って言われた。

けれど。



お金かかるし、働きたいし、

だから、通院で頑張って治療します、

と言っておいた。


内科から、婦人科と心療内科が一緒になった

クリニックを紹介された。


個人医院だけど、小さな入院施設はあった。




ご飯を食べられずに夜、真っ暗な部屋に

寝転んでいると、

“幽霊”

と言われているものを、とにかく視るように

なった。

前からだけど、比較できないくらい、

すごく多くの数。


街を歩くと、

どの人が生きてて、どの人が幽霊なのかが

わからない。

生きてても、幽霊みたいな人もいる。私みたく。


幽霊というのは、自然に話しかけてくる。


あんまり、怖い人はいない。少ない。


だいたいは、話を聴いて、と来る。


聴いたら、離れていく人もいる。


でも、また来る。か、ずっといる。



生きてる人もそうだから、話を聴いて欲しい人ばかりだから、別にいい。


体がないだけ。


そう思ってたら、男の人の霊で、

体があるみたいに、襲って来た人がいた。


生きてる人の何倍も、重いし

質感があった。



恐ろしかった。だって、処罰されないから、

何回も来る。



強く拒否して、霊を撥ね飛ばすことを、

ようやく身につけた。












20 years old


人生がつらいとか、

そんな薄ぺらい理由じゃなく……


死にたいという、強すぎる衝動で、

山の中にいた。

死ぬには、爆発的なエネルギーが必要。


本気で自殺未遂したことがある人は、わかるはず。


ふらふらっと、死に惹かれることもあるね。


けれど、それも、命をひとつ絶とうとしているのだから、その時は、実行力がなきゃいけない。


だから、完全な鬱だと死ねない。死のうとしても。



枝に確かに、ロープを巻いた。結び目も、

3個くらい。これなら切れないし、

斜面だから脚を投げ出せば、

もう首は絞まる角度。


ちゃんと考えてた。


ロープに首を入れた瞬間も、身震いするくらいに覚えている。


怖くはない。やっと終わるって思った。




枝が折れるなんて…………


私はその頃、29kgとかだったはず。


30kg切ったら入院。そう言われていた。


枝の内部を見たら、外側からわからないけど、

老化した枝のようだった。



その直後に、一斉に、樹が喋っているのが

わかった。


怒っていた。樹も、葉も、山、大地というものが。


ここで死ぬな、汚くするな、って。


山の持ち主の、ご先祖様だと思うけど、複数のお年寄りの霊が見ていた。



怖くなって、ごめんなさいと言って、

山から離れた。



歩いている時、初めて喪服を着ていたことに

気づいて、自分のことなのに、

ゾッとした。



一緒にいた霊が着せたのか、

記憶がないだけなのか、わからなかった。





記憶がない、っていうのは後からわかるけど、ちゃんと病気だった。


でも人に言うと、都合がいいことだけ忘れるとか、わざと忘れるとか、

仕事サボりたいからだとか、

的はずれな嫌なこと言われるから、

黙っていた。



お医者さんに

つらかった、よく生きてきた、

生きてくるために、必要な病気だったと言われて

初めて涙が出た。




毎日を混乱しながら、どうにか生きていた。


一瞬一瞬、油断したら終わりそう。

乗っ取られそう。

霊に。か、頭がおかしくなった私に。



おかしくなったんだな、と自覚してた。


おかしくならないほうが、おかしいよ。


だから、これが自然なのかもな…

とも思う。



これでどうやって、この先生きていくのか、

ずーっと考えていた。

考えてる内に、その日が終わる。


それで何とかかんとか、生きていく。


今日が終わったら、今日は頑張った。と思う。


明日のことなんて考えたくもない、

生きてたくない、

息したくない、


明日は生きてるかわからない。




歩くのが好きだった。

無になれる感じが。

実際は頭の中、死ぬか生きるかでいっぱい。



特に用事なく、お休みの日に街を歩いていたら、急に腕を引っ張られた。


霊じゃない。



最初、誰なのか、よくわからなかった。

ぼーっとしてたから。


ようく見たら、高良だった。


でも、オーラがちょっとグレー多めだし、

濃い深い、哀しみの青になっていた。


ひと言で表すと、暗い青。ダーク。


背が高くなってた、前より。


それより、髪が…

なぜロン毛か…

ま、耳隠れるくらいだけど。


しかも茶髪嫌ってたくせに、茶髪か…


どこのプロデューサーかと思ったわ。


(時代?流行りか)




高良は、いろいろなことを聞いてきた。


会いたかったと言っていた。



気づいてないのか、気づいてるけど気にしてないのか、気にしてないんだろうけど、


生霊の女の人、連れていた。


高良の首に、腕が巻きついてた。肩から、

私のほうをじっと、窺っていた。



この人は、高良が好きなんだなと思った。


高良が冷たくしてるのもわかったし、

でも近くに置いてるから、セフレか何か

だな、ってのも。



そっちが気になって、高良の話があんま入ってこない。


東京に進学したこと、

高良のお父さんとお母さんも、心配してること。



今どうしてる、どこにいる、連絡先は?

ってのに、聞かれるまんま答える。


高良って。

この女の人と、けっこう深く付き合ってるみたいだけど、

何で冷たくしてるんだろう?


で、私に嬉々として、

いろいろ聞いてくる。


まだ好きって言わんばかりね。


変…



高良の、こんがらがった感じが、よくわからないから、ちょっと怖い。


前も、怖い感じがあった。


高良の賢い部分。私より格段に、難しいことを考える部分。

それが、感情入ってぐちゃぐちゃになると、

高良は変なふうになる。


人を傷つける。

私も傷つけられる。




カフェで、無理にパフェ食べさせられて、

嫌な気持ち。

食べたくないって言ってるのに。


普通な感じで、食べさせてきたから、

まだ付き合ってるくらいの気分なんだな、

と思う。

別れるって言ってないんだから、私が。


悪いのはこっちだけど。



高良は送ると言って、断ったらタクシー呼ぶと言って、それも断ったら最後、見送る感じで

ずっとこっちを見ているのがわかった。





次の日、会いに来てくれたけど突然だったし、家にはおじいさんが来ていた。



完璧に邪推してるなー、と思いながら、

高良に「また今度ね」

と言った。

また、帰省してきたら。



おじいさんは、高良の話を聞きたがった。


なんか、大切な話だと自分の中で思ってた、大切な、

生々しくて消化もできてない話。



だからかなり省いて、話した。

表面的なことだけ。




毎日くらいに、高良はメールしてきた。


死ぬのを心配してるみたい。


わかるんだな……



高良からのメールを読んで、難しいことも書いてくるから、もう一回、二回、三回くらい読み直して、

考えて返信を書いて、書いたのを読み直して、メールを返す。


ご飯たべてないから、頭がぼーっとしていて、本もよく読めなかったけど。


高良のメールは、すんなり入ってきたから、

たぶん毎日、頭のトレーニングになった。



話が面白いから、負担に感じないし。



電話で話してると、

ただ言ってこないだけで、

「まだ好き」と高良は、思っているのがわかる。




でもまあ、離れて住んでるし、あっちで

就職するんだろうし、

話をするのだけで充分。


男女間で、どっちかに恋愛感情があっても

友達、っていっぱいいるでしょ。


どっちかに恋愛感情あったら、どうにかなる

ことも多いけど。


だいたい、人と人の関係ってけっこう、

あやふや。


親子ですら、あやふや。


あやふやなまんま、どうとでもなる。



あやふやでいいじゃない。



今、決めなくたって。




高良は、こっち(東京)に来てほしい、

一緒に住みたい、と言った。


私、そっちで何すればいいの。することないし。

こっちで仕事してるし。



どうやってるのかわからないけど、高良は

株だか、なんだかで学生が持つような

お金じゃないお金、

持っているような感じ。


だからか、横暴な感じ。


食わせてやっから、来い!って感じ。




そっち帰ろうか?も

逆に言われた。

何、言ってんだか。


せっかく入った大学。


大学はね、入ろうとしても入れないのよ。

レベルの話だけじゃなく、

入学金とか。


奨学金はあるけど、たとえば美大も高いわ。


借金だから。簡単には借りられない。





電話で、説得という風情の告白をされたけど、

何で私にこだわるのか、

私が悪かったのか、

高良も悪かったのか、

それとも私だけが悪いのか、

わけわかんなくなってきて、


高良のエッチの仕方が嫌い、

なぜならドSだから



みたいなこと言ってしまい、

それでその話は一回、終わった。



でもその後も、ごく自然にメールは続いて、

電話でも楽しく話して、

帰省中には友達まじえてお酒飲みに行って、


友達として、仲良くしていた。






21-22 years old





きっかけは、ママが気まぐれで作ってくれた、おにぎり。


泣きながら食べた。


それから、ちょっとずつお米を、食べられる

ようになった。


9才から、お米(ごはん)が虫に見えてしまい、食べられなくなったこと…


何がきっかけだったのか、家に食品がなくなったこと…



猫のごはんの缶詰を、その時、家にいた猫と、分けっこして食べたこと

を思い出した。


猫缶は、安かったからか、義理の父に食えと

言われた。


一時期、お姉ちゃんが拾ってきて、家にいた

猫、名前は「スカイ」


空、って意味のね。


あの子は、義理の父が捨ててしまった。



スカイのことを思うと、悲しくなって涙がたくさん出る。


命なのに、命を簡単に


義理の父は捨てた。




憎いとかじゃない、今はもう。

でも忘れられない。






おかゆだけでも、毎日ちゃんと食べてたら、

生理が来るようになった。



お米の力って、すごいんだなあと思った。





ママはその後、霊障だったんだろうけど、

熱いお風呂に落ちて、救急車で運ばれたらしい。


総合病院じゃ手に負えなくて、大学病院に。



そのお風呂って、義理の父の実家にあるんだけど、

私がおばあちゃんのお世話で行った日、

もう夜だったから、泊まって、そのお風呂に

入ったら……



黒い髪の長い女の人の霊がいて、


お風呂のガラスの扉が、何と、

いきなり全部外れて、

昔の田舎の、小石を敷き詰めたようなタイル、

あれにぶつかって、ガラスは粉々になった。


私、全裸だったけど

怪我ひとつなし。


こんなこと、ある?

考えられないことが、霊の世界ではある。


熱い湯舟に、霊から突き落とされること。

ガラス扉が外れたこと。



何でなのか、霊の世界に精通していたママは

死ぬ目に遭って、

私は、あんなに死にたがってたのに、

頑健なるもの、神様というものに

護られてしまった。




護られて、それで何が出来るのか、

よくわからない。



ママのお世話。

おばあちゃんのお世話。


仕事しながら。



骨董店では、たまに占いもしたけれど、

全部無償。そして、懇意なお客様だけ。



画廊と、画家のおじいさんを紹介して貰い、

絵も描いた。


売れたり、褒めて貰えたら嬉しかった。



絵のモデルは、重ね着したり、変わったポーズだったり、いろいろ。

90分×2

120分×2

くらいで、だいたい5000円~10000円だった。


ひとりの画家の専属で、半ヌードみたいなのもあったけど、

服は着てた。

薄いやつ。でも透けない程度。


キャミワンピみたいなやつ。


それはもう少し、単価が高かった。


この画家は、骨格フェチだったはず。


年輩だったし、恋愛の話はしたけど、

何事もなかった。




文学青年みたいな人が2人、

絵を描いてた人が1人、

作曲してた人が1人、

みんなそれだけじゃ、ごはん食べられないから、

普段は会社員だったりした。


正確には、文学青年Aはフリーターで、

Bは働いてなくて、

絵の人は役所勤めで、

作曲の人は事務だった。



私は意味もなく、媚びを売って


で、にっちもさっちもいかなくなって、

逃げ回っていた。


Bにはお金を貸したりはしないけど、

ごちそうはしてた。


全部、恋でも愛でもない。

寂しかっただけ。


4股じゃないよ、ひとり、ひとり、きちんと

話して向き合ってたけど、

恋愛にはならない。




どっから、男の人は恋愛と思うのだろう。

夢中になったら?




その人の性格だとも思うけど、

全然気持ちがなくても、「愛してるよ」

って言えるのね。


気持ちがないから、逆に言えるのね。



一回寝て、気が済んだらOK。


何回も寝たい、飽きるまで。って人もいる。

それもOK。


病気になったりしないなら、いいじゃない、

今しかないんだもの、この状態の、

この体。


いいじゃん、適当で…

なんにも、大事じゃない。


私の体なんか大事じゃない。

心なんかどこにある?

からっぽ状態か、機能してないか、

それすらわからないよ。



そう思っていた。体なんか、心も。

どうでもいいや。

だってもう、もうすぐ、もう明日にでも

死にそうだし、

死にぞこないだし。



そこに今、いる人が求めているのなら、

一過性でも楽になるのなら。



小学生の時、友達だった子がいて、

一人はキャバ、

もう一人はイメクラだか何だか、

で働いていた。


誘われたけど、惹かれたけど、どうしても

足が進まなかった。そっちには。

何でなのか、よくわからん。

なんとなく、嫌。



代わりに、お金のためでもなく

恋愛でもなく、

その時タイミングがあった人と、

一緒にいた。


だから、付き合ってるとかでもない。







高良からは、相変わらずメールも電話もある。

お盆、年末年始、あとGWも、

特にイベントじゃなくても、

こっちに来てる時があった。



会ったし遊んだけれども、

何だか高良とは、する気にならなかった。


昔いっぱいやったじゃん、何で今さら。

というような、意地の悪い気持ち。


高良は、会えば目で何考えてるか、

かなりの深さで、広さでもわかった。


すんごいいやらしいこと考えてるなー、

とも。目を見たらわかる。



かといって、それだけでもなく、

重い、重い、凄く真面目なこと、

人生の根源に関わるような、

哲学的な思考もあった。


どっちにしろ、怖い感じ。

付き合うなら、ちゃんとしないと。



でも高良のその、膨大なエネルギーに応える、

エネルギーがなかった。



付き合うなら、中学や高校での付き合い

以上になるのだし、

前に失敗したことは、克服しないとならない。


克服できそうにない。


高良と今、付き合ってたりしたら

全力で、束縛される。


限りないエネルギーは、生きる力そのもの。


性に傾ける力がある人は、仕事を始め、

社会的な成功を収める力がある。


高良の性、に応える程の力がない。

とも思う。

私は弱い。その意味で、釣り合わない。


人間関係での、釣り合いって実は無意味と

わかっていた。学歴とかね。


だけど、エネルギーの均衡は、確かにある。



どうでもいい人と、エッチはすぐできる。


高良の場合、全部儀式だ。

その儀式に、付き合えそうにない。



「友情結婚しよう」

みたいな申し出も、高良からあった。


友情結婚って…

一緒に住むんなら、男女関係あり?

それとも、なし?

を聞いたら、


一緒に住む以上、あり。

という答えだったから、

高良の都合の良い計画だなあと思い、断った。




「大人」は、

AV出る子とか、風俗で働く子を、

変な生き物と思ってる。


でも「大人の男」は、

それを餌にしたりする。


彼女たちは、過去に悲しいことがあろうが、

なかろうが、

一生懸命生きてるだけだ。ただ。



行動も、精神のありかも、

よくわかってないかも知れない。


でも生きるしかないし、生きるだけ。

それでいいじゃない。今は。



ふわふわした、恋愛と呼べない恋愛であっても、

少女の内は…

もしかしたら大人になってからも

必要なんじゃないかな。


生きる為に。


誰かと関わること。


異性であっても、なくても。




体の繋がりは、その時だけで関係が薄いかも

しれない。

でもその時は、とりあえずあたたかい。


心が入ってなくても。


後から、嫌な気持ちになっても。



体の繋がりに依存すること。

どんなに悲しくても、苦しくても、

今を生きる為。


真実の愛を誓い合う誰かに、出逢う為。


生きなきゃいけない。


生きてていい。

生きることを、否定はされない。


誰も、責めてない。


たぶん、これらのことを、その時、私、

誰かに言ってほしかった。







23-24 years old



ママは、2回も皮膚移植手術を受けた上、

しかも医療ミスまであって、

しかも揉み消されたし、

散々な後、

くも膜下出血で入院になった。



くも膜下出血は、パパが死んだ原因だから、

とても怖かった。


生きるか、死ぬか、どっちかしかない。


切れた血管の場所が、前頭部だからか、

「目を開けても、閉じても、赤い」

うわごとで言っていた。


目に障害が残ったけど、なんとか助かった。




脳を手術されると、誰でもおかしくなるらしい。


脳外科の病棟で、男の人で、事故で脳を手術して、

ぼんやり徘徊してる人がいて、

その奥さんも、看病で精神的にギリギリになって、

泣き喚いているのを見た。



老夫婦で、支え合って、

おじいちゃんはお腹から栄養摂ってて、

おばあちゃんがチューブを汗だくで、

入れるのを見た。



私も病院に寝泊まりしていて、

ママは暴れまくってるし、

病棟で一番大暴れしてるし……

疲れていた。


若い看護師さんが嫌がるくらい、

暴れてた。

ベテランさんも、引くくらい。



防止帯という名前の、拘束具だけど

それも縄脱けしちゃうし。

ママは小柄なので、アメリカ製の防止帯は、

縄脱けしやすかったみたい。



で、徘徊して階段から落ちて、

でも平気だった。


命綱、これ抜けたら手術もう1回、

って言われてた頭のチューブを、

ママは引っこ抜いた。

でも平気だった。

どうなってんのか、意味わかんない。

何でもOKね、人間て。


術後2週間は、暴れる。

それから、鬱になったり、術後の性質・性格が決定される、落ち着く、

みたいな説明があって、


私は死んだパパに、ママを明るい性格に

設定してください、

と祈った。


そうしたら、ママの明るい性質の部分、

たぶんママが子供だった時の性格。

そこに落ち着いて、

歌ったり踊ったり、笑ったりするように

なった。



ママの手術をした先生は、その病院でも、

住んでいる地方の辺りでも、

偉い先生、実績のある先生だった。


手術前に

「成功率は86%」

手術後に

「10年は再発させない、10年保証します」

と言った。


自信がある人。実力がある人。


最初、術前説明で会って、

それどころじゃなくて泣きじゃくって、

先生の話を聞いていたんだ。


でも、この人は信頼できる、

というのと、

人間として、もの凄い強さで、惹かれて

惹かれて、私は先生の目を見ていた。



先生も、私の目を見ていた。



後から、

「なんて冷静なお嬢さんだろうかと、思った」「頭の良い子だと思った」

「あなたが出してくる言葉を、反芻した」


と言われて、どきどきとした。


けっこう取り乱してたし、私はバカだよなー、

と思うことだらけだし、でも文章をよく

書いてたから、言葉を褒められたのが、

すごく胸に響いた。



ママの容態が落ち着いて、毎朝回診で、

先生に会えるから、

めっちゃどきどきした。



先生は毎日は会えない。

学会とか、なんか会議とか、偉い先生だからか。

中堅の先生が来ると、ちょっと残念。


でも、先生と会えたら、

先生が雑談を長くしてくれたり、

「昨日誕生日だった」

と教えてくれたり、


CTの説明する時、二人きりで小部屋の

デスクにいた時、先生が緊張しているのが

わかった。


私が目を逸らさないのが、悪いのか、

隣に座った距離が、近すぎたからなのか


こんな大人でも、思春期みたいな反応するんだなあ、と思った。



先生は、好意を持ってくれている。

でも患者の家族だし、年齢が離れている。


だからたまに話せるのが、

幸せ、面白い、楽しい

という感じだった。



病棟で1回、ママの看病の過労で、

ぶっ倒れた。

先生がたまたまいて、看護師さんと

お世話してくれた。


最初にストレッチャーに載せる時、

大柄な看護師さんがひょいっ、

としてくれたけど、


診察台に移る時、先生が一人で

抱っこしてくれた。

私の恋愛感情って、

パパへの思慕と、ごっちゃごちゃ。



ママの退院の時、一度お礼の手紙を書いて、

通院の時、

気持ちを綴った手紙を渡して、

末尾に連絡先も書いた。


診察後、ママが一人で、すたすた立って、

看護師さんがカーテンの向こうに、行った。


その時は神様がくれた、いっしゅんの時間。


デスクでカルテを見てた先生に、

手紙を渡した。

急だと驚くから、


耳元で「先生」って呼びかけた。

もっとびっくりしていた。


「えっ?あっ?」くらいに。

大慌てしていた。


恋愛慣れしてないとかじゃ、ない。

若い頃は、かなりモテたはずよ。


ずーっと仕事だった、家では自分より優秀な奥さんに、尻に敷かれてる、

と話してくれたけど。

それは幸せなことではないの?



その後、デートして

きちんと直接の言葉で、

告白をした。


「人を救っている手に、抱かれたい」みたいなこと、私は言った。


つまり、エッチしたいだけか、って

感じなんだけど、違う…。


先生は結婚してるから、

結婚はできない。


そんなのは望んでない。


好きな人だから、好きな人と深く深く、

繋がりたいだけだ。



不思議なんだけど、結婚はしたくないけど、

先生との子供は、欲しいなと思った。


我欲かも。女としての。


または、単純に人間としての欲。


子供産みたいって、年齢的にもちょうどいいし、

好きな人の子供って、ただ欲しいし、


赤ちゃんがいたら、赤ちゃん優先になるから、

私は死なないで済む。

赤ちゃんが大きくなるまで…。


我欲といえば、間違いなくそう。



先生の気持ちは聞かない、

先生の家族がどう思うかも、考えていない。



周りの人に、止められた。

先生が好きなんだと、話しても大丈夫な人には、話した。


近い関係の友達や、

全然遠い関係の人。



親友は、「いい結果になるはずない」

と言った。

賢い意見、常識として。

常識は、大事。当たり前の感覚で、

生きることのできる親友。



ママの信者さんの女性、私にとっては

親戚みたいな人。

その人は、「23才に不倫はきつい」

と言った。

苦しいから、止めなさいって。



高良は、黙ってた。

黙って、私の話を聴いていた。

「ふうん」くらいな感じ、

特に感想なし。

コメントを控えさせて頂きます

の感じ。



お姉ちゃんだけが、

「不倫だろうがなんだろうが、

そこまで人を好きになれるのは、良いこと」


と言った。

お姉ちゃんは、不倫経験者。




先生とは、だいたい東京の学会の時、

ついていって。

それから、ホテルで一晩、だらだらして。

学会の時だけは、邪魔されないから。

翌日、夕方に先生と、新幹線で帰る。


一晩、その時だけ、幸せに思う。



地元では、会ってすぐホテル行って、

病院から電話来たら、緊急オペになるから、

ほとんどの場合。


そのまま、タクシー代持たされて、

帰る。



先生からのメールは、時間がある時は

本質的な話。

生死のことや、哲学の話。


忙しい時は、

それでもメールくれるけど

「今日もop(手術)です」「これからopです」「今opが終わりました」

毎日、6hくらいの手術を、1回、多いと

2回とか?

外来が終わって、入院患者さんを診て

そして、手術を行って


脳の手術は、細かい血管の手術。

手術用の顕微鏡で。神経内視鏡も使って。


先生の手は、人を救う手であると同時に、

人を送る手でもある。



最善を尽くして、尽くして、

どうにもならなくて、

見送る手、天国へ。


だから特別だった。


先生に触られるというのは。

生死のはざまに

精神状態がある時、

いっつも生きるほう、

生きるほう、へ導いてくれる。




別に変なやりかたは、してない。

私が途中で意識がなくなっても、

先生は慌てない。慣れてるから。

人が、意識をなくすことに。


愛情からの、軽い縛りくらいはあったけど、

痛くない。 物足りないくらい。


紐とか、柔らかい素材じゃないとしない。

バスローブの帯とか。



血は、血を流すことは危険だから、しない

と言っていた。


体は傷をつけたら、血圧を上げて怒るんだって。


体を大事にしなさいと、


傷が思っていたより多かったと、

先生は私の体を最初に見て、言って、

目を潤ませた。

何なんだ、これはって。



びっくりされないように、話はしてたんだけど。虐待のこと。


接していく内に、ちょっと変な部分が

たぶん、私に色々あったんだろう。


脳の写真を撮ってみたい、

と先生は言ったりした。


先生の後輩だか知り合いだか、

の精神科医に会って、そこから治療になった。

治療というか、問診も検査も、気が遠くなるくらい。長かった。


実験台か、何かみたいに思った。


レンドルミンという、睡眠導入剤。軽いものだけど、

それを飲んでから、退行催眠もやった。


寝ていた記憶しかない。


後から、その間に描いた絵や、受けた心理検査の結果を聞いた。



騙されてる感じ。


台本でもあるみたい。


気持ち悪い…



でも、そうじゃないってことは、よくわかる。

意識がない時のことを、探して視ようとすると、DVDのように再生される。


そんなん観たくない。視ない。



どうしたらいいかわからない時、高良にメールや、電話をする。



呼吸が苦しいから、高良に電話したこともある。



高良はもう、就職してて忙殺されてた。


大手の金融機関にいた。


つらい時、といっても、

あんまりしてないけど

あんまりにもつらい時、電話した。


繋がるか、繋がらなくても

けっこうすぐ、折り返してくれた。



高良の声聴いて、「あ。大丈夫」

と思って、すぐ切ったりした。

ありがと!って。

大迷惑。



メールでは、高良はその検査や治療のことを

詳しく、知りたがっていた。

なるべく教えたつもり。

でも近くにいないから、どんだけ

めちゃくちゃかは、高良も知らない。




電話して、これが最後かも。


最後に高良と話すのかも。

と思っていた。


毎回。


だから、大事に話してた。


ひと言、ひと言、大事に押し出して、

高良のひと言、ひと言も、

大事に胸に仕舞う。


ま、他の人にも、同じに接していたけれど。



死を、常に意識していたら、

たいていの人々、物事は、

いとおしい。








25-26 years old


骨董のお店では、社長が私を「愛人」

呼ばわりし出して。

何の関係もないのに。


二人で出かけたりはしてたけど。


名前を呼び捨てされたり、違和感があった。


ちょうど、大学に行きたかったのもあって、

そこの仕事を辞めた。


塾と家庭教師の会社の、面接を受けた。


学力テストがあったけど(数学も)

何でか大丈夫。パスした。


塾によっては、英語も数学も、センター試験の内容だったけど…


英語はともかく、数学は、よくわからなかった。

英語の点だけで、採ってくれたのかも。




中高生の子たちと触れ合えるのは、

精神的にとても、楽しかった。


先生と呼んでくれる子が、ほとんどだけど

中には、名前にちゃん付けで

呼んでくる生徒も。

私は友達か!

と思った。


本当は、良くないんだけどね。

線を、引かないと。


特に、高校生の男子に

ちゃん付けされると、

ちょっと違うだろと思って、

それは叱った。




家庭教師では、学校に行けない子を、

だいたい担当していた。


いろんな理由。

いじめや、おうちが何かの宗教を信仰していたり。

虐待があったり、精神的に病んでいたり。

体の病気で、心にも影響があって、

行けない子もいた。

引きこもりの子も。


その子たちのご両親、特にお母さんも、

いろんな歯車の狂いを、経験していた。


家庭教師じゃなくて、カウンセラーだったと思う。役目が。

その、おうち全部の。


家庭教師で行ってるけど、生徒か、または

ご家族のどなたかの、お話をよく聴く。


お勉強もしたけど。


今、思うと全部、私がしてきた仕事、

性分に合っていて、

人に感謝された仕事は、

“聴く”

“視る”

“伝える”

だった。


聴く、が大きいかな。

視る、については大っぴらには

してなかったし、

これは、こうだよ、

こう思うから、頑張れるよ、

と伝えていた。


その人の心を、聴いた上で。

だから、聴く、が大きい。


聴くってのは、発されている話だけじゃなくて、


空気全体。オーラというもの。

その人を護る、霊の声だったり、

神様がついていらっしゃれば、神様のお声

だったり、

その人の魂の、強い叫びだ。



でも、それらは受け入れる人と、

受け入れられない人と、いるから。


言わない。

言わないで、教える。

私の一意見として。



生きている限りは、可能な範囲で、

こうやって誰かを手助けしたい。



神様が許してくださる時間は、

人と、誰かと繋がりたい。


それは、私が生きることの意味、

生きてることの証だ。





脳外科の先生とは、別れた。

ちゃんと、きっぱり別れた。


先生の携帯番号から、電話が来た。


取る前から、胃が痛くなった。

先生への想いが、塗り潰される感じ。


その電話の向こうは、先生の奥さんだった。


無言だった。

私も無言。


無言、40秒くらい。

そして切れたけど、

その40秒で、私は不倫というものの、

影の部分を理解した。



これだけの、憎しみを、受けることなんだ、

ということ。



私は先生の、性の面の解消、

つまりは日常の、仕事や人間関係のストレス、

を解消してただけと思う。


先生は、私を利用していた。

恋愛かどうかは、わからない。

嫌いじゃない、

人として、異性として、

惹かれたというのは、あっただろうけど。


それが持続していたのか、どうか。


恋愛ってのは、ずうっとずうっと、

好きで好きで、時々嫌いで、

恋愛してたら毎日、世界が

輝いて見えて、

その人と何かあったら、曇って見えて、

音楽がずうっと、耳の中で奏でられてる

みたいな、そんな感じだと思うの。


きれいな音楽。

嬉しくても、悲しくても。

その人を想ってることで、奏でられる音楽。



先生の音楽は、最初くらいじゃないかな。


始まりの時期ね。


患者の家族と、ドキドキしながら話す、


手紙をもらったら、嬉しい。


初めにご飯食べたり、ドライブしたり、

ふつうにデートして、キスして、エッチして。



密会的な形で、会うドキドキとか、


学会の時の、秘密の時間。


よく行っていたホテルのラウンジには、

先生と同じ医師、医師仲間、他県の人がたまにいた。


先生は、

「あなたを誰だろうかと、思っているよ」


みたいなふうに、楽しそうだった。


愛人とか、変なふうにしか、見ていないわよ。

お金で買ってるとか、そんな感じよ。


恋愛とは思われない。

実際に、恋愛ではなかったでしょうと、

思うけど……


私には、恋愛だった。

良い恋愛だった。



父性への憧れと、恋愛、性愛の区別がついた。


でも、最後は

私が、ごねて終わらせないと恐れたのか、


凄く冷たく、ナイフで刺してお仕舞い、

みたいな感じで。精神的にだよ。


そうして、終わった。


私は、先生の病院での立場や、

病院内部、上層の人たちのごたごた、

彼らの秘密、

先生の家庭のこと、奥さんの経歴や

弱味まで、

知っていた。先生が話したから。

覗き視したりは、しない。


だから、なおさら

バレた、ヤバい、

ってなったんだと思うけど。


何て言ってたかな、

忘れたな…



「あなたのような、人とあんまりにも違う過去と性質の女は

まともな男を不運に突き落とす」

みたいな感じだったかな。


もっと変なこと、いっぱい言われた。


言葉自体は、忘れたけど

刺さったものは、抜けてない。

傷も治らないから、放置よ。


その傷は、…

その傷があることで、後から生きていく私は、生きていけたから。

…治らないでいいんだ。



存在を否定されたので、

「じゃあ何で、先生は私と寝てたんですか?」


ってけっこう、冷たく言ってしまった。


黙ってた。

ま、いいや。




と思いつつも、ひどい衝撃で。

ふらふらっと夜中、外に出て、

ナンパして来た車に乗った。



ふつうの、

夜中にナンパして

見知らぬ女を車に乗せる人が、

普通かどうか知らんけど、

まあ、ふつうの人、だった。



乗ったら

「◎号沿いのラブホでいい?」


みたいな感じ。


とても恐ろしいこと。

そんなのは。

今なら、どんなに絶望しても、しない。


恐ろしいことだけど、

私はその人が、普段は勤め人だし、

ホテルに他に複数の人が、いるわけでもないし、

その人が危険なこと、危険な薬や、

危険なプレイをするわけじゃないってこと、

病気も持ってないこと、

がわかっていた。



深夜に、拾われた場所で降ろしてもらって、

それだけ。



翌日、嫌悪感で、自分自身へ。

頑張って細いベルトで、

首を絞めてみたのだけど、

上手くいかない。


首を絞めるのは、

人にやってもらわないと、不確実。




親友と、

高良には電話して話した。


親友は、「ほらね」って。


高良は、相変わらず

コメントを控えさせて頂きます

の感じ。




あ、でも、

先生と付き合ってる間に、

高良はこっちに転勤してきた。

地方だけど、左遷ではないみたい。


こっちの地方一帯(いくつかの県まとめ)の、

管理職らしかった。


けど、外国に行きまくってた。


お土産に、外国の昔のポストカードとか

頼むと、買ってきてくれるから、

嬉かった。



仕事の愚痴を聞いても、基本的には

よくわからないから、

会社って大変だなー

人間関係って、こじれるんだなー

くらい。


仕事の内容が、難しすぎて、

何をやってるのかわからない。


だから、高良の言ってることに、

耳を澄ますだけ。

すると、わかりにくい高良の感情がみえてくる。




ちょうど、高校の時に同じクラスだった子から、同窓会行かない?

の連絡が来た。


中学も同じだった子。


学校辞めてるのに、会費4500円で2h飲み放題、

みたいな誘い。


高良は仕事だと言った。


暇なので、19:30くらいから

行った。



なぜか、高校の先生(担任じゃない先生)が

誰かと勘違いして、こっち来て、

「いやあ、懐かしいねえ」

みたいな。


誰よ。知らん先生だよ。



理系の人は、男性が多いし、彼らで固まってたかな。



友達は、「狙い目、狙い目」的な

アグレッシヴさで、

中学の時の同級生づてに、

理系コーナーに踏み入っていたわ。


私、しっかりと手を繋がれてたもんで、

一緒に分け入ったわ。

むさくるしい、理系男集団の中に。



「ああ学校辞めた人?オーイエー」な

ノリであったわ。その渦中では。



みーさん、

充君(仮の名)

は、そこにいた。


充君は、高良の話から入ったから、

「高良と付き合ってた人」と、

最初から認識していたよ。


高良は、言いにくかったかもしれない。

充君に。

だって、濃い付き合い、

と高良は思ってたはず。


充君は、高1くらいの頃の付き合いなんて、

せいぜい一緒に帰ったり、

せいぜいチューしたくらいじゃない?

って認識。



高良と付き合ってた子でしょ?

高良は今日来ないの?

高良は今何してるの?

これが、充君の言ってきたこと。

でもね、充君は、高良が仕事で

同窓会を欠席すること、

高良の仕事の内容も、知っていたはず。


だって、彼らは休みの日、

たまにフットサルで会ってたはずよ。


思うのだけど、充君は高良を、

大事な自慢な友達、

ってのと同時に、ライバル視も

あったと思う。


私みたいな、ぽやーっとした

バカ女ね、

どうやら高良が執着してるぽいぞ、

よっしゃちょっとからかったるかー、

くらいの気持ちじゃなかったかな。

だから、今の関係の探りを、最初に

入れてきた。

これは、霊視ではないよ。



でもまあ、話してたら、

充君は陽気だし、明るいし面白い。

少しの邪気なんて、誰にだってあるし。


充君のは、邪気にもならない、

小さい子ども

みたいなイタズラ心。


それが証拠に、充君は最初の思惑は

すっかり忘れて、とっても楽しそう。


やたら、

飲みもの次、何ほしい?

持ってくるね、

というふうに、

お世話をしてくれる人だった。


デザートのスプーンが大きめで、

食べにくそう、と思ったら

ボーイさんに、小さいスプーンください、

って言いに行く。



りんちゃん(最初からちゃん付け)おしぼりは?おしぼりいる?持ってくるね。

っていうやり取りを、

似たようなやり取りを、

ずっとよ。


あれ食べる?食べないの?

持ってくるね。

っていう…


これは、

人によってはウザいと思うか、

ときめくか、

どっちか。


わからん…

充君は、とりあえず女性には、

とりあえずお姫様扱いする、

という信条で、生きてるらしい。



りんちゃんといると、落ち着くから

一緒にいるね。

と充君は言い、

その後、他の人とあんまり話さず、

言葉通り、ずっと一緒にいた。



お酒、めっちゃ勧められたし、

充君は車だから飲まないと言って、

代行頼まないんかい!

で、女送って食うんかい、

とわかったけど、

そんなのは普通だから、どうでもよいわ。


男なんか、みな一緒よ!

なんでもこい、ウリャー


というのが、酔っ払った私の思考。


と言っても、トイレが近いからか、

飲んだら、すぐ出る。

いっそ便座で、飲まなきゃいけないくらい。

すぐ出る。

トイレばっか行ってたから、

具合悪いと勘違いした充君は、

ただ送ってくれただけ。


車の中で、充君は迷っていた。

キスくらい、しとくべきか、どうか。


だから

「何でしないの」と聞いた。

「しようと思ったじゃん、今」って。


そういうこと、言っちゃいけないと

言われた。


アパートの前で、「寄らないの?」も

聞いた。


「まだそんな段階じゃないよ」

と言われた。


でも、にこっとしてたから、

あ、次にはもう泊まるな、

と思った。


だから、家に帰ってすぐ、

掃除してから眠った。














27-28 years old


充君は、わりとすぐに泊まりに来た。


「大学生の部屋みたい」

とか言ってた。


ま、家賃安かったからね。



充君は、普通っちゃ普通なんだけど、

ちょっと性的には、Sだな

とは思っていた。

Sというより、限りなくサド寄りというか…



本当にサディストだと、それはもう

犯罪者だから、無理。


充君の場合、刺激しなければ、

そういうのは、出さないだろうなと思っていた。


性の面でSな人は、実はとても、気を遣う人。


日常では当然だし、エッチも相手に合わせる。それが、Mぽい子ってだけ。




サド寄りの人だと、身構える。一応。


流れによって、どうなるかが読みにくいの。

考えてることが、あっさりならわかるのだけど。


難しいことを考える人だったり、ひらめき系の人だと、急に流れが変わる。


ある感情、一部分だけでも、急にスイッチ入るような人が、一番怖い。


充君は、このタイプ。

そして、高良もこのタイプ。



充君は、最初は普通だった。


で、1回で終わりかな、

と私は思っていた。


2回目に泊まりに来た時、

「女の子の、子供が欲しい」

と言った。


……。


おばあちゃんが入院中だから、

一緒にお見舞い行こう。


タマ(仮のあだ名。充君が考えた、私の呼びかた)をおばあちゃんに、見せたいから。


と言った。


……。


次の休みに旅行いこう、とか


うちの母親が会いたいって言ってるんだけど、いい?(早っ)とか


……。



あれっ、この人は適当に遊ぶのじゃなく、

真面目に付き合うんだな?


と思った。



充君の女性遍歴は、かなり数が多かった。


そして、それらは、あまり「遊び」じゃないっぽかった。


つまり、真面目に付き合って、それだけ

別れを経験しているから、

何かがあるわけよ。



私には、よくわからなかった。



世話焼き過ぎる人だなあ、とは思ってた。


心配症だなあ、も思った。



電話、メール、一日の間にめっちゃ来るなー

とも。


充君は、忙しい仕事だと思うんだけど、

それにしては、連絡くる。



会えば、動物みたく“大好き大好き”

という感じだから、

そういう人かと思い、

同じように返していた。


私も大好き大好き、モードなら安心している。


充君は、大好きな人を全肯定する。


それって、翻せばすぐ全否定になりそう、

と私は思っていたけれど、


充君は、一回大好き大好きになったら、

もうずっと、大好き大好きなようだった。



全肯定されていると、世界中から全肯定

されているくらいの、

恋でバカになった状態、になってしまう。



でもな、待てよ…

くらいの気持ちは、残っていた。



単純に見える充君は、ちょっと複雑さを

抱えてもいた。


彼のお母さんにまず会って、

充君を溺愛しているのがわかった。


すこし、病的なくらい。

で、充君は、それをウザいと思っていた。


だからか、私に全部の愛を捧げてね

という反面、あんまりベッタベタだと、

ウザい。みたいな感じかな。


意識はしていなかったけど、

充君にとっては、私の病気が謎で、

よくわからないから、それでベッタベタに

ならず、ちょうど良いらしい。



私が「あんた誰」的な反応をする時が、

あったと言っていた。


充君、その人(その反応をする、病気の一端)にまで、世話を焼いていた。


全部、タマだから、大事にしたい。

と言った。


私にはその言葉が、すごく救いになった。



基本的に充君が全肯定なので、

精神的な病気に

さらに精神的に、ぐちゃぐちゃになってた状態の私は、だいぶ助けられた。


治療に前向きになった。


それまで治療する気が、あんまりなかった。


だって、病気と思ってなかったの。


病識があるか、ないかは、治療にあたって

とても大事。




充君のお父さんにも会って、お父さんは

そうでもないんだけど…


お母さんが、うちの嫁になるなら~

という意識が、強かった。


充君のおばあちゃんの病院に行って、

会って、話して、



私の死んだパパのお母さん(本当のおばあちゃん)と、親友だったのがわかった。


充君のおばあちゃんは、私がおばあちゃんと

楽しく話せるからなのか、

おばあちゃん同士が親友だったからか、

(私のおばあちゃんは、もう天国にいる)



充君と結婚しなさい、って感じだった。


充君のおばあちゃんは、充君のお母さんより、本来は学歴や、出自を気にする人。


パパの家系は、昔のお役人(今の国家I種)が多かった。教授をしている伯父さんも。


そこらを、考慮してOKしてた。


充君ち、おじいちゃんがお医者さん。


医療家系。

ちょっと、かなり差別意識というか…

があった。



充君自身は、「医者は実は、位の低い人の仕事」

みたいなこと、普通に言った。


血を触るってのは、汚れに触れること、

という…。



長い時間をかけて、充君に植えつけられた

意識を、変えていったつもりだった。


お殿様思考というのかな、そういうやつね。


もともとは、とても純粋な人。充君。


親族の中でも、お殿様だった充君は、

「タマと結婚する」


と決めてしまい、私も返事してたわけじゃないけど、結婚する人になっていた。





脳の病気の後、仙人のようになっていたママに、

「今どんな男と一緒にいる」

と聞かれた。


ママは、私が先生と付き合っていたことを、

知っていた。


脳やられてから、霊力なんかなくなった、

とママは言ってたけど、

そうでもないみたい。



「うどんを取り分けてくれる人」

と答えた。


充君は、必ずラーメンや何か、食べに行くと、

子供用のお茶碗を頼んで、

「タマの分。これだけは、食べなさい」

と言った。


そのことを教えた。


ママ、

「結婚しな」

と言った。






大型連休の時、充君の会社は、だいたい最大4日くらい、お休みになる。


初めて、私のアパートで連日過ごして、

ごく自然に過ごせた。


私は、何日も何日もは、誰かと過ごせなかった。

大丈夫だったのは、他には高良だけ。



充君は、家族が好きじゃないから、

と言っていて

そこから、半同棲状態になっていった。


地元だけど、一人暮らししていた時期が

長かったらしい。


充君の妹さんが、働いてなくて、暴れる…

みたいな話は、聞いた。


だから、仕方なく実家に戻ったけど、

やっぱり気づまり、

だからタマといる、

という話だった。


 

充君の存在は、抑止力になっていたみたい。

その、家庭内暴力の。

さらに、お父さんが特に、

妹さんにお金をあげてしまうことの。


お母さんは、充君に救いを求めてて、

だからもう嫌だ、

という話。


充君は、その話をしてくれた時、

子供の時から降り積もった怒りを、

少しだけ私に見せた。



その話の後くらいかな…


だんだん、充君は普通のエッチじゃなくなっていった。


私が、変なことを出しても受け止める、

と感じたようだった。


変わった話をしても、

変わったプレイをしても、


逃げずにそこにいる、ってことに

気づいたみたいだ。



うん、私の実家にくらべたら、まともだし。

充君の家。



それに、絶対に無理なことは、

充君はしない。はず。だった。



ほとんどのことは、その時つらいと感じても、充君との関係が終わるような、

ことじゃなかった。


別れたくなるような、ことはなかった。


困ったのは、物理的に無理ってこと。


物理的というか…


ペットショップで、

犬小屋とサークル、どっちがいい?

みたいな感じで、柵のほうが、まだマシかな

と思ったんだよ。

その時は。


今考えたら、どっちもどっちか、

犬小屋のほうが、落ち着くかと

思うんだけど。



で、充君はとっても楽しんで、

首輪やリードや、ワンコのご飯のお皿、

まあご飯は買ってなかったけど。


そういうの揃えて、新たにワンコ飼うみたく。

アパートの一画に、

ワンココーナーを作ったのね。


THE・シュールレアリスム。


私、全裸よ。

普通に、ワンコ役だよ。


ま、それだけなら別にいいのよ。

付き合えるよ。


+SMなようで、

こう、肘を曲げた姿勢で縛られたわけね。

膝もね。

肘で歩けってことね。あと、膝で。

四足歩行ね。


脚は、痛いのさ。単純に、変に曲げてるから。


肘は、私が骨ほね状態だからってのもある

けど、

フローリングにぶつかって痛くて、無理なのよ。

移動できないわけ。



叩かれたりするのは、本当に無理なんだけど、それするし、

それ無理。



もうさ、その状態は無抵抗とか

そんなレベルじゃないから。

なんもできない。


それで、いろいろしてくるわけだけど。


道具でも充君でも、入ってくるのは

何でもいいさ、もう。


ただ、物理的に無理。移動がね。


動けないと、怒られるし。これ、

困ったな。



でも数回で飽きたらしくて、そのセットも

すぐ捨てたし。

部屋が狭くなるから。



そんな時は、

「あー早く終わんないかな」


と思っていた。


充君と別れる選択肢は、なかった。



充君は、後から

ごめんねごめんね

痛かった?

ごめんね

という感じ。

泣きながら、手当てしたりする。

本気で、泣いてる。


充君は、他のことでは泣かない。


でも、その時は泣く、

死にそうな顔をして。



それで、ケーキとかお花とか、ネックレスとか、指輪とか、買ってきたりする。


一緒に買いに行って、盛大に抱き締める。

毎回、変なエッチではなくて、

普通な時もある。


私は、その全ての充君の行動、言葉に

嘘はないと知っていたし、

全てが、愛情が為せる業、

と思っていた。




高良が、

充君と付き合った後から、

猛攻に切り替えてきた。


どうにも、ならなかった。


どうして高良が私にこだわるか

が、全然わからない。



変なプレイに付き合えるからかな、

くらいにしか、感じられなかった。



高良は

充君のように、育った環境の歪み、

難しいけど、齟齬

というようなもの

から来る、どうにもならない、

コントロールできない変な性癖、

ではなかった。


制御されてる。いつも。


だから、私が助けなくても、

それ専門の、仕事にしてるような人で、

間に合うはず。


と、考えていた。


後から、高良は生まれついて、

ちょっと変態なのか、

と思ったり、

「お前が元凶」と言われて

謝罪の気持ちになったけど。



とりあえず、その頃の高良というのは、

仕事でドロドロしたものを

見たり、やったりしてるからか、

凄く暗かった。


黒いオーラを出してる時も、あった。


黒いオーラってのは、

人間が鬼になる前に出したり、

鬼になっちゃうと、煙突のようになるから、

完全に黒いんだけど。


すこーし、霧みたく噴射してる感じかな。


話してるうちに、もとの高良の、綺麗な青のオーラに戻る。


けど、私が返した言葉で、わかりやすく、

暗い青、悲しみの青に変わったりする。



高良が、ほんの少し、感情を出して

感情のまんま、手を掴んできたりしたら、

物凄く怖かった。

何されるかわからない感じ。



高良のことは、どんどん読みにくくなっていた。

どんどん、閉じていった。高良が。


読まれたくない!って

拒否ってる時もあった。


読もうとは、してないんだ…

今までは、高良から、気持ちを教えていたんだ。



実際の痛みじゃなくて、高良が出す電気みたいなのがあって、

それがビリビリと、「痛い!」って

口からこぼれ出るくらい、


本当に痛い。


触られたら、もっともっと痛い。




高良は、よくわからないなりに、

コントロールはしていた。


だから、私にそんな、触らないようにしていた。

充君の友達なんだから、当たり前。


でも、そんなんどーだっていいよ、

と内心では思ってる。



よくわからないけど、真剣に恐がられてるから、しない。

という風情。



私は、高良は男の先輩とかお兄ちゃんとか、

その辺りの存在に思おうとした。


頼りになるし、甘えられるから。


甘えかかられたり、頼られたりというのは、

高良にとっても、一時、感情が治まること

のように見える。



私がお願いをする時、

高良はぼうっと、一瞬だけ、した。

一瞬だけ、快感に浸るみたいな、顔。


甘えて欲しい、頼られたいと、

高良は思ってる。


好きと言われたい、一緒にいてと、言われたいと思ってる。だから言う。


言うと、高良は次に言われるまで、

生きてる。それくらいの気持ちだと、

わかってはいた。



私なんかいなくても、生きられるはず。

けど、それは無味乾燥して、生きるということ

みたいだ。


だけど…

高良に何か、それ以上のことをしたら

もっともっと、全部


になるだろうから。


全部あげないと、納得しないんだろうから。





真冬に、隣の県に近いくらいの駅で、

電車が止まってしまった日。


高校生の男子の生徒が、

その子の住んでる家(母屋じゃなく、離れ)

に泊まりなよ、

親に黙ってるから

と言いまくってて、

駅から離れなくて。


その生徒は、指導中にAV観せてきたり、

一触即発の状況だった。

派遣元の家庭教の会社にも、相談はしてた。



困って、困って。

だって犯罪だよ。私が。

襲われても、私が不利だよ。


充君は、こんな日に連絡してこないし。

連絡繋がらないし。


高良は、疲れてるのに、すごく遠いのに、

大雪の中、運転して迎えに来てくれた。



明日の出勤時間聞いて、

高良が疲れてるのは、わかってたから、

国道沿いなんてラブホしかなかったけど、

泊まろうと言った。


休まないと。


一晩いくらかな、休憩が4000円くらいで、

充君と前、これ系のところで、

一晩15000円くらいだったような…

あれ延長したからか?

翌日お昼まで、ぐうぐう寝てたからなー

とか、考えてた。


中3生1人の、1ヶ月の指導料が、

12000円くらいだった。週1×4回で。

それ、飛ぶわー

と思いながら。


でも、高良に悪いよな、と思ってた。


高良になんかされるとかは、全然

考えてない。


たぶん、高良はどういうこと?

誘ってんの?

くらいに思ったんだろう。


間がありすぎて、

疲れすぎてて、私は寝てしまった。

瞼を閉じたら、開かなかったわ。



次の日、高良は

「シャワー壊れてる💢」

とラブホに対し、

イライラしつつ、

ラブホ代も払ってくださった。


起きたらベッドにいたけど、

スーツ(上)脱げてたけど、

ハンガーにきちんと掛けてあったし、

高良がなんかした、

とは思わなかった。


別に、どこも痛くなかったし。


エッチ後、おなかとか、

おまた辺り、痛くなりませんか?

私だけ?





そこから、充君ともう、婚約して、

引っ越して、充君と暮らし始めて。



充君の出張中や、充君が忙しい時期、

高良は狙って会おうとしていたし、


構ってくれる、遊びに連れ出してくれる

友達、という意識になっていた。



私は、異性に対してずっと、

曖昧だった。


曖昧で何が悪いのか、

定義しなくて、いいじゃんか、

特に男女関係なんて…


と思っていた。


ずるいおやじみたいだ。



高良が、買いものの後に

「送る」

と言った。

いつも通り。


雪が降ってて、車のフロントガラスから、

綿みたいに花みたいに降ってくる、

雪のかたまり、雪の粒を見ていた。


たまに、晴れている日が多いんだけど、

あと、夜にも。

赤ちゃんが降っている時がある。


誰かがママになる、ってこと。




そうしたら、私めがけて、

赤ちゃんが降ってきた。


女の子よ。


あ。


赤ちゃんの名前まで…。



高良を見た。

憂鬱な、顔をしていた。


あ、高良か…


この時に、高良なのか、とわかった。


結婚の相手じゃない。

赤ちゃんの、パパがだ。



高良は、単なる性欲処理とかじゃなく、

私が一緒にいることで、

生きる上での、心からの、

魂の安らぎを求めていた。


それは、一回で足りるんだろうか。

足りないだろうな。


でも、役に立つかな、

高良の魂は、一生、その一回を

記憶して、忘れないでいてくれる。



高良の家に行く、

と言った。


高良は、大混乱していた。

表面は、変わらない。


あんまりひどすぎることは、

ないよなー…


と思っていたけど、

高良が何するかわからないな、

というのはあった。

不安。


大人になってからのことは、

わからない面もある。特に性の面は。



恐怖感が、ちょっとあった。

だって、たとえば殺されても、

そりゃ、ないだろうけど

逃げる手だてはない。



途中、こりゃ無理だ、

と思った時もある。


私がどんな反応しても、高良は喜ぶだけで、

絶対に満足するまで終わらないな

しかも長そう

というのと、


監禁も、本気でやられたら可能なんだな

ってのと。



かなり、それでも手加減してるんだな

というのがわかった。

だから、心底怖いとも思った。


愛情は、暴力にすり変わる。

それは、受け入れられるけど。

恐怖まで、取れるわけじゃない。



高良のは、プレイじゃない。

儀式。本気。

その延長上に、死がある。

 昔、言ってた疑似死じゃない。

本物の死。

愛の完成。

高良は、欠けない愛を求めてるんだ。



高良とは、結婚はできないな

と改めて思った。








29 years old


妊娠は、すぐにわかった。

高良の家に行った後から、ずっと風邪っぽい

症状が続いていた。

風邪治ったかな、と思ってたら、

ずっと微熱。


病院に行った時、赤ちゃんは9週に入ろうとしてた。

心音が確認できなかったから、少し心配したけど大丈夫だった。


大丈夫大丈夫…産める。元気に産まれる。


高良には、すぐ知らせた。


でも反応が微妙で、「嬉しくないのかなー」と思ってたら、そりゃそうよ、


高良は、充君の子だと思ってるんだもん。



駄目だ、言えない。言ったら、

私は充君とは結婚できない。


充君は結婚すべき人。

結婚して、支えていかないと。


充君は、絶対的な不安を、心に抱えてる。

彼の実家の問題が、浮かび上がる度に

不安定になる。

支えていかないと。


これから、会社で大事な役職についていく。

支えていないと、充君は大変な仕事ができない。


結婚って、支え合いだ。

私は充君に支えられている。




どうして高良が結婚する人じゃないのか……


結婚する人だと、思ったことがなかった。

一緒にいる人とは思うけど、

それは深い友達、親友として。



高良にも、支えられている。

けど私が支えてなくても、高良って完璧だし…。



恋人というのは、10代の頃の関係で、

それだと上手くいかない。

性の面で二人とも、コントロールできないんだよ、それはまっとうな、社会生活を

しないということ。


他の人と関わらないとか、

仕事をちゃんとしないとか。


二人でいて、二人だけで完結する。

まさに、10代の恋愛だと思う。

それだけになっちゃうんだ。


青臭く、

心中しよう、

みたいにさ。


高良の純金みたいな、愛って……

私も純金じゃなかったら、

捨てられる。


人は常に、ずっと、純金でいられるのかな。

他の人を見て、惹かれて、24金から22金に

なるとかさ。

想いに、混ざりものが。出る瞬間が。


高良はその瞬間、私を殺すのではないかしら。

完璧じゃなかったら、いらないんじゃない?


もしかしたら、私も、

高良に対して、そう思うのかも。

お互いに、見張り合う。

お互いに、縛りつけ合う。



結婚って、暮らすこと。生活。

純金で暮らすって、もう、高良だけしか見えない環境。

高良を、毎日遅くまで、家から出なくて、待つだけ?


出産や、育児は許されるよね。

でも子供より高良を見ないと、駄目なんじゃないかな?

高良って、根幹は二人の子供じゃなく、

まず、こっち(高良)見て!って感じ。




妊娠検査薬の、陽性に変わった窓の写真を、

充君に送った。


すっごい、喜んでいた。


一回、仕事を抜け出して帰ってきた。


コンビニに連れて行かれた。


「食べられそうなの、何でも入れて」

と、カゴを持ってきて、私をなでなでしていた。


病院には、お姉ちゃんが連れて行ってくれた。最初は。


エコーの写真を、充君はずっと見ていた。




私は、「女の子だよ」と教えた。


充君、「まだわからないよ」と言って、

名前をたくさん考えていた。


充君の考えた名前は、だけど

女の子の名前だけだった。



母子手帳を充君の名字にするため、

すぐ入籍になった。


今まで飲んでいた、何種類もの薬を、

止めていかなきゃならない。


婦人科、精神科の先生と相談して、

少しずつ、少しずつ、削る。


ただでさえ、子宮の奇形なのだし、

赤ちゃんが小さく産まれるだけでも、大変。


充君は、薬で奇形の赤ちゃんが

産まれたら…

と心配はしていた。


心配してたけど、「どんな障害があっても、一緒に育てようね」

と言った。

この言葉にも、嘘はなかった。


具合が悪くて、充君の隣で寝ていた。


熱があった。薬を抜いてるせいなのか、

38℃くらいは出る。

充君は、妊娠中とか具合悪いとか、

全然関係ないみたいで、

普通な感じで、したい時にする。


妊娠してようが、妊娠する前だろうが、

私は充君の婚約者だし、今は、

妻だから、避妊しないのは当たり前。


だけど体調が悪いと、すぐ炎症が起きる。

病院で、その度に洗浄して、

薬を入れて貰う。


飲み薬が出たり、軟膏が出たり、

検査して菌がいなくなるまで、

病院に通わないとならない。


ピンポン感染で、充君と移し合ってる

可能性がある。

男性には、特に症状がない。

一応、充君用の軟膏も出たけど、

すっごくウザそうに、塗ってくれない。


塗ってあげれば、おとなしくしてる。





心臓の動きが変。循環器科で、不整脈と

言われたけど。

それは、前から。ひどくなったのは、

減薬のせい。


精神薬は、麻薬より抜くのが苦しい

と言われている。

薬によるのだけど、体への依存度がめちゃくちゃ高い。

抜けるまで、時間がとにかくかかる。


一人でいると、

意味もなく、死にたくなる。

体がぐわあっ、と震える。勝手に揺れる。


充君がいれば、その時は鎮まるまで、

しっかり抱いててくれる。

震えや、

死への衝動は、それでひとまず、治まる。


充君は、どんなにひどい状態でも、

薬を持ってきたりはしない。

がんばろう、がんばって

という感じ。


吐いたり、トイレ行く前に倒れて、

下痢の状態で漏らしたり、

人間として、

人間じゃなくなりたい

と思う時もある。


尊厳は、

人間だからあるの。

だから、人間じゃなくなりたい。

そう思うのは、人間だからだね。


充君、私は人間だよね?

と聞いたりした。


助けて助けて助けて、と言って泣いた。


私は、充君が救ってくれると思っていた。

充君は、救うと言ってくれた。

充君の心を、がんじがらめにした。

充君は苦しんでいた。

苦しんでいたけれど、

充君は、救わなきゃ

救えるのは俺だけ、という感覚に

酔ってて、その酔いが心地良いから、

その心地良さから、愛してるよ、

と言う。


愛って、ばかばかしい。

そのばかばかしさに、救われたい。

充君の愛は、本物だったとちゃんと、

今もわかっている。



死にたい、

苦しい、

赤ちゃんがお腹にいるとか、関係ない。



苦しい!

苦しい!

叫びたい。

私は、

なんでこんなになっちゃったんだろう。


薬をたくさん飲まないと、生きられなく

なったんだろう。


心臓の音がうるさくて、

心臓の上を剃刀で切ったら、血がいっぱい出た。


薬が入った、悪い血だと思って…


血が抜けたら、薬も抜けると思って…


血の多さに、少しびっくりして

高良に会いたくなって、電話した。


切ったとは言ってない。

会いたいと言っただけ。

仕事中なのに

病院連れて行く、今からすぐ行くと

高良は言った。


具合が悪いんだと、感じたみたい。

話しかた、声が変だったのかも。


私は、出血を怒られると思って

ごめんなさい、やっぱり会いたくない

と言って大泣きした。


高良は、黙ってた。

考えてる。言葉の意味や、

私が考えてることを、考えてる。

高良を物凄く、傷つけている。



傷つけてるとわかってるんだけど、

私の考えじゃないような考え、

私自身の声なんだけど、

怒りのような声が、頭の中に響いたりした。


あんたが、異物を体に入れたから、

こんなに気持ち悪いのよ。

異物さえなきゃ、薬が飲めたのに。


声は、そう言ってた。


異物って、赤ちゃんのこと。

つまり、もともとの

精液ってことね。

高良が悪いと、その声は言ってる。


私は薬なんか、飲みたくないとずっと

思ってた。楽になんかならない。

毒で、毒から逃げるだけ。


また別な声で、


あんな男。

次会ったら殺してやる。


みたいなのも、あった。

高良に対して。


私は、そんなこと思ってないのに。



治療っていうのは、結局何だったのか。

霊でもない、けど同じくらい怖い、

霊より邪悪な私の中にある、一部。

その一部が、大声で、

私の大事な人を責める。

高良に対しても、時々、充君に対しても。


使命を責める。

生きることを責める。



こんなのが、のさばったら、

私は出産も育児もできない。



赤ちゃんは、守らないといけない。




妊娠中は、ずっと苦しかった。

とにかく体が、きちんと働いてなかった。


充君がすることは、ほんの少しの痛みでしか

ないし、

充君の精神状態を保つために、助けないとならない。


充君は、お腹を圧迫するようなことは、

しなかった。だから生活は、一緒にできた。


それでも、赤ちゃんはすくすく育っていた。

子宮内の壁を、蹴って大きくなっていた。


壁を取る手術、しなくてよくなった。


低出生体重どころか、出産直前に約3500gと言われてて。

充君の親戚で、1500gで産まれたケースがあって、心配されまくってたというのに。


母親(私)の体型、骨盤の大きさから、

ギリギリ。

まあ無理なら帝王切開、

まず下からトライ!

と産婦人科の先生に

言われた。



母親がこのガリガリさで、なぜ3500g?

隠れ糖尿かもしれないから、

一応、違うと思うけど一応、

と検査された。


絶対違うし…

と思いつつ、

検査前夜と検査日の朝昼、絶食で

検査の時に

サイダーみたいなやつ、一瓶一気に飲まされて、おえおえと吐きつつ、検査。


そして糖尿なわけないし。


私は、こっそり、この子の強さや

大きさは、高良の子だからだ、

とわかっていた。


高良は4000g超えで産まれてて、

お母さんは初産で苦しんだ挙げ句、

帝王切開だったと聞いていた。



お腹をなでて、よく話しかけた。

というか、歌ってた。


♪こーちゃんは

パパがすき

ママがすき

人がすき

猫がすき

本がすき

賢い子

優しい子

かわいい子

静かな子

元気で幸せ


もっと他にも、歌のパターンがあるんだけど

その歌の通りの子で、その歌の通りに育っている。



充君は、マタニティクラスにも来た。


出産時の付き添いは、付き添いたいとか

ビデオ回すみたいな話だったけど、

断った。



産まれる日が、わかっていたから…

前日から、こたつの中や、クローゼットの中や、

壁のすき間や、ベッドにもぐって、

部屋も暗くしていた。


猫が出産する時と、一緒。

暗い、狭い、暖かい場所にいたい。


充君がいる時間は、手を握ってもらう。


前駆陣痛のような痛みは、もうあった。

子宮口4cm開大という話だったけど、

私が平気そうだからか、

痛みは弱いということで、

家にいた。


数日前にも、病院で助産師さんに

痛くないの?入院しておく?

と言われたけど。

生理痛のほうが痛いから、と言った。



痛みが10分間隔になったので、充君の車の

後ろで、横になって、病院へ運んでもらった。


この期に及んでだよ、膣に炎症があったのよ。抗生剤を点滴しながらの、出産になる。


出産前にも、エッチしてたから悪いのよ。

体位が、お腹がでかいから横からになるけど。

先生は、お産のきっかけになるから、

まあ、OKって感じだった。



充君は、陣痛中に「何で歩けないの?」

って感じで、

ひっぱたきたくなった。


帰ってもらった。


生理痛とどっこいだった痛みが、

だんだんハンマーで、腰や背中を打ち砕く痛みに

なっていく。


眠かったし、痛すぎて、陣痛の合間に気を失う。


で、痛みで起きる。


私のカルテを見て、

精神的にパニックになると悪いからと、

婦人科の先生と助産師さんが

無料で大丈夫だからと、個室を勧めてくれた。


甘えてはいけないと思って、お断りした。



傍に、死んだパパがいるのが、わかる。

守ってくれてる。


風船みたく、お腹からパンッ!と

破裂の音がして、

うすいピンク色の、羊水がバーッと出た。


シーツが

うすピンク色になっただけで、

見た目は透明ぽかったな…


痛みがもう、お腹裂かれた痛み。


それでも、歩いて、分娩台に。痛すぎて

息できない。


目を閉じないこと、おへそあたりを

見て、顎を引くこと、

呼吸をゆっくり、ととのえて。


助産師さんの合図から

ずれないように、いきむ。


お隣でも、陣痛室でも、

この世のものじゃない断末魔の声みたいな、

ぎゃーっ、って

叫んでる人もいる。


私は、ひと言も声、出せなかった。

あとから、「冷静なお産でした」

と助産師さん達が、褒めてくださったけど…


見ていたの。

命が産まれてくる時の光。


命を産み出す痛みが、どんな痛みなのか。



赤ちゃんが大きいから、なかなか出てこられない。


鉗子、吸引、大柄な助産師さんが、のっかって

お腹をぎゅうぎゅう押す。


入り口を鋏で、先生に切られても。

麻酔してなくても、わからない。

チョキン、ってのはわかるけど。

全然痛くない。


お腹が痛いから、そっちしか感じない。


赤ちゃんが出た瞬間は、痛さじゃなかった。

熱さだった。

熱かった。

熱だ。命の熱。



胸に載せられて、すぐおっぱい飲んだ赤ちゃんは、

真っ赤な顔をしていた。


ああ赤ちゃんだ、こーちゃんだ、

と思ったら涙が自然に溢れて、溢れて、


ここに今、いること

今まで生きたこと、

生まれてきたことも


産んだことも

神様が

わかってるよ、

いいんだよ。と言っていた。

これでいいんだよ、

って。



赤ちゃんを産んだ後、

おまたがあちこち裂けてしまった。


後産と言われる、痛みもひどい。

ボルタレン(鎮痛剤)の坐薬、3回くらい。

6時間ごとに。


おしっこは、管を入れなきゃ出なくて、

うんこの時も、出なくてトイレで倒れるから、

看護師さんと一緒に、入る。

で、指で掻き出してもらった。


下半身が麻痺して、歩けないし、

お産って大変なんだな

とつくづく

思う。



狙ったみたく、充君は多忙になっていった。

充君は、赤ちゃんを

「怖いから」って抱っこしなかった。

ちいさくて、落としそう、って。


助産師さんやお医者さん以外では、

お姉ちゃんが、最初にひょい、っと

抱っこ。


そして、ママ。

ふらっと来て、

お祝いもなく、

抱っこしていった。


ママに、

「私を産んでくれて、ありがとう」

と言ったのだけど、

はいよー、

って感じ。

流された。



高良は、

こーちゃんの1ヶ月健診あたりで、

やっと、お祝い包んで

会いにきてくれて、

それで、おそるおそる、こーちゃんを抱っこしていた。


感想、なし。



私は産後の体のしんどさ、

ずっと続いている減薬・断薬の苦しみ、


でほとんど、寝ていた。


こーちゃんは、おっぱいさえ飲んでたら、

すやすやすやすや、

眠っている赤ちゃん。


ぎゃん泣きもしない。

おむつを取り替えて、

沐浴させて、

お部屋をきれいにして、


私のごはんは、最低限で。摂取。


お姉ちゃんが、ご飯を作りにきてくれた。


充君は、充君のお母さんが私に関わらない

ように、シャットアウトしていた。


それだけじゃなく、

「タマは病気だから。おうちにいないとね?」


という感じだった。

充君に許可をもらわず、

一歩でも外に出たら、駄目になった。


私は充君かお姉ちゃんか、充君のお父さんか、

高良が一緒にいなければ、

外に出ることは、

許されない中で


それを、あまり不自由に思わず

疑問をあまり抱かず

充君の愛情、

と思って


こーちゃんと、静かで

優しい、穴ぐらの中にいるような時間を

毎日毎日

すごしていた。



















30-33 years old


眠るように、毎日毎日をすごした。


充君は、お休みの日もお休みじゃない日も、

仕事の合間を縫って、

病院に連れて行ってくれた。


こーちゃんは、保育園ではないけど

民間の託児園のような場所、


マンションの一室で、

個人でやっている託児所に、

時々預けることがあった。


私は心配で、心配でたまらなかった。


産まれてから、ずっとこーちゃんは一緒に

いて、一緒に眠っていたから。


ほんの数時間でも、離れるのが不安。


個人の託児所が、優良なルームだとわかっていても。


充君は、こーちゃんと過ごす時間が

すごく少ないからか、何とも感じてなかった。

コインロッカーに、鞄を入れておくくらいの

感覚。


こーちゃんがちょっと大きくなると、

充君の実家に預けることも、増えた。


それでどうするかって言ったら、

充君は二人だけで出かけたがったり、

単なるデートというか。

気分を変えたいから、ラブホ行きたいとか。

しょーもないな…

とは思っていた。


こーちゃんが、心配だった。

でも、充君の実家はこーちゃんを、

お姫様のように、

大切にしてくれてはいた。



高良は、週に2度は来ていた。


短時間だけど、高良も仕事の合間を縫って

来ていた。

車に、チャイルドシートをつけてくれたから、すごくびっくりした。


チャイルドシートも、安くはない。

しかも、高いのを買ってる。

普段は、トランクに置いている。


高良は、それを彼女に隠してなかった。

高良の彼女のなっちゃんは、私達の後輩。

私達の昔の関係を、当時の様子を見て知っていた。


「りんの子供を、病院に連れて行く時に使う」

と言ってたみたいだけど、

こーちゃんじゃなくて、こーちゃん付きで、私を病院に連れて行っていたの。



充君は、ちょっとおかしいくらい、

高良に頼っていた。


あらゆること。小さなことも、大きなことも。

学資保険とか、それらの相談ならまだわかる。


それだけじゃなくて、マンションのトイレの

水の流れが変になった時、

管理会社じゃなく、高良に電話したの。


クラシ●ンとか、そっちに電話したほうが

いいかな?みたいな。


おかしい。簡単なことを、自分で判断が出来なくなってる。


高良は、ただでさえ忙しいのに、ちゃんと

丁寧に、充君に応対していた。

高良に、ごめんね

と言ったら

いいよ、というだけ。


でも…

口だけで笑ってるから、

本当に笑ってない時の、高良の笑いかた

だから、

内心イラッとしてる。

そして、他のことも考えてる。

恩を売っておこう、みたいな。


イラッとしつつ、友達だから、助けるのかな

…高良に依存してる、充君を?

なんで?

と思っていた。

いざという時、充君を封じこめるため

というか、

言うなりにするため

だよなあ、

と思ってはいた。


充君は高良が、充君の留守中、家で

お茶まで飲んでるとは、思ってなかった。

かなり寛いでるなんて、全然。

高良は、

「癒されに来てる」

と言っていた。

友達として見てませんよ、

ってのはまだ、言ってた。



私は別に疚しくないから、充君に

言わなくていいや

と思っていた。


疚しくないなら、言えたっちゃ

そうなんだけど、

高良は

言わなくていいよ

と言った。面倒だから

と。


充君が、何となくなんだろうけど


留守中に人を入れないで

お姉さんと、◎ちゃん(私の親友)以外。


と言った辺りから、

高良は玄関先までで、遠慮してもらったけど。

それは引っ越してからなので、

だいぶ後。



産後の不調は、1年半くらいは続いた。


断薬までは、こーちゃんが4才になるまでは、かかった。

こーちゃんが5才になるまで、やっぱり具合

が悪かった。


それから1年だけは、元気があったのかも

しれない。

それでも、他の人が楽々こなせることは、

できずにいた。




充君の困った点が、増えていった。


外に自由に出られないのは、いつも体調が悪いから、特に嫌じゃない。

出かけたいと、思わない。


こーちゃんがいるから、なおさら。

一人でもつらいんだから、こーちゃんを見ながら、一人で外に行くなんて、考えられない。


お金が足りない状態、現金がない状態は、

時々困った。


カードはあるんだけど。


小銭が必要な状況って、ある。

昔の自販機しか

見当たらないとか、

カード払いができない、病院や薬局とか。


充君に、現金をもらう時、

何回も「ください」って

言わされる。

すごく嫌。


充君がいない時は、お姉ちゃんや高良に

お金を、もらわないとならない。


本当に申し訳なかった。


お姉ちゃんはともかく、高良に、

「現金がない」

って言うのは、なんだかとても、

恥ずかしい。


高良は「……」

って感じ。何も言わないし、

嫌な顔はしないけど、

充君に対して、色々思っている。


私に対しても、「何であいつと結婚したのかね、こいつは」

的な感じだ。


しかも、充君は高良にお金を払わせても

(たとえば、お薬代1260円とか)

忘れてしまう。


私が何回も言っても、高良に返してない。


それ、10回繰り返したら1万円以上よ。

そんなことは、けっこう多くあったの。


私には、独身の時の口座があって、

まだ旧姓のまんまにしてた。

充君は知らない。


高良に、ちょっと離れた地区の銀行なんだけど、

連れて行って、お金を返すから

と頼んだ。


高良は、「いい、いらない」と

言っていた。




充君の性の面が、

最も困る。

体調が良くない、特に子宮の具合が悪い時、

耐えられないことが、多くなっていた。


外(バルコニー内)に出された時、

そこにテーブルとかあるくらいだから、

外用の。

広さはあるんだけど。


だから、私一人がぶっ倒れても、大丈夫な

空間ではある。


けど、充君は「座るな」

と言った。「立ってな」って。

立ってる、というのは、寒くて、暗い中、

全裸で、って難しい状態。


外から、ぎりぎり見えない位置だと、

場所が限られる。

人って、上は見ないから。あんま。


たまたま、マンションが建ち並ぶ地域の、

その一つを見上げたりは、しないんだろうけどさ。一応。



頭がふらふらする。寒いと、耳も痛くなる。

耳が痛くなると、余計にめまいがする。

つらい。

頭も、痛くなる。お腹も痛くなる。


つらいなあ…


と思いながら、頭痛をこらえながら、

充君が部屋に入れてくれるのを、待つ。


私には、目星がついていたから、

あと何分とか、だいたいわかるから。

だから、大丈夫だった。なんとか。


充君が言ってほしいことを、言わなきゃいけない時もある。

だいたいは、充君に従ってますみたいな、

あなたに服従してます的な、

口にすると情けないっていうか、

恥ずかしいっていうか。我に返るとね。


そんな言葉だけど。

言葉は、念を籠めないなら、ただの音だから。

なんてことない。




充君が、乗っかってきたりすると、

いつも一瞬、その瞬間はなんか、恐い。


男の人の体というのは、重いし大きい。

それだけで圧迫感がある。


どうしても苦しくて、泣いてしまう時もあった。怖いんだよ。


充君の体に対して、どうにも無力で、

ちらっと自分の体のパーツ、一部、

肌とか、爪とか、ちょっとしたものが

視界に入ると、

あんまりにも頼りなく、弱っちく、

簡単にぶっ壊れるんだと実感する。


そういうのを、充君は、

高良もだけど、

変なふうに色気のように、「男」っていう性が、捉える。


エッチ中、唇が自然と赤くなること、

知ってる女性、いるかな。

性器もなんだけど。

鏡とか見ながら、その時してると、

わかると思うんだけど。


異性がいて、そういうことしてると、

なるんだよ。

隠せないの。バカみたく、色が変わるんだ。

肌の感じも、変わる。

なめらかに、どんどんなる。


私は、嫌だな……

と思いながら、その変化をいつも

嫌だな、と思って、もう、隠したかった。


充君がヒートアップするきっかけ

というか、

私は弱いです、私は攻撃されて、嬉しいです

みたいな反応だからね。


体は苦しくて苦しくてたまらないのに、

なんで、攻撃してくる人を受け入れるような、

もっと苦しみが増すような、色になるんだろうな、と

不思議だった。


強姦される時、体を守るために、

たくさん保護するように、濡れるという反応

になる。

それらを、強姦する人は、都合良いように

受け取る。

嬉しいんだ、って。

そんなわけないでしょ。

命がけなだけだよ。



胸。

胸がないせいもあるけど、すぐ下が心臓、骨。

ガッって掴まれると、ちょっと心臓が止まる感じ。

でも授乳中は、胸がふくらんでいた。

だからか、なおさら掴まれる。

やっぱ痛い。


充君の手が、あたたかいからまだ、まし。

人の手が触ってるだけだと、わかるから。

これは充君だ。私の旦那様だから、

大丈夫よ、大丈夫よ

と、自分自身に言い聞かせる。

じゃないと、息つぎ出来なくなる。


私は、胸を触られるのはあんま、好きじゃない。痛いし。

胸も、お腹も痛くなる。すごく。


乳首が破ける、みたいなのは何回も、何回もあった。

特に、授乳中は弱ってるから。

充君が、ちらっと噛むとかだけでも、無理。

針とか、そんなの出たらもう、終わり。

後から、シャワーしながらでも

こっそり、消毒しようと

浴室にオキシドール、持って行った。

充君は、だいたい寝てしまうから、

一人で、死にたくなりながら、

手当てしたり、

必要なら、痛みをこらえて、

授乳をする。


朝方だったか、空が嫌な、寂しい色で

明けてる朝、

蒼くて、寒くて、悲しい朝に、

死にたい、

と強く思った。

でも、子供の時に比べたら、

幸せすぎて、話にならないのよ。

充君は、愛情からこういうことしてる。

起きたら、大好き大好きなまんま。

出逢った頃とおんなじ。

タマしかいない、タマだけ大好き大好き、

と言う。

動物みたいに…。



胸の炎症からか、乳腺炎からか、熱も何度も出た。

里芋をすりつぶして、パックすると治るらしいんだけど。キャベツの葉で、冷やすとか。


駄目だった。


赤ちゃんのための胸だから、

嫌悪感もあった。

感じかたが、産後は変わる。


充君は、赤ちゃんのためじゃなくて、

充君のためのもの、って感じで

おっぱい飲んでた。

まあ、こういう人は、いっぱいいるらしいので。そんな風俗も、あるらしいので。

けど、産後だから

精神的に、気持ち悪いなあと、単純に感じた。

今は、そんなこともあったなあ、

としか思わない。


搾乳しなきゃいけない時があって、

胸が張って苦しい時だけど。

おっぱいの、保存のためじゃなくて。

減らさないと、胸が痛い。


搾乳器を、充君は趣味だけのために、

買ってきた。

見たいだけだと思う。

効率的じゃなかったから、私は手で搾乳した。


コップに搾乳して、って言われたので、

コップに入れておいたら、充君はミルク飲む

みたく、普通に飲んでから

会社行った。

毎朝の一杯よ。栄養よ。

私がむしろ必要だよ、栄養。



味は、牛乳と同じらしい。

それでシチュー作って、と言われた。

……。

普通に、牛乳使って作っておいた。

面倒だったから。

搾乳つったって、いっつも張ってるわけじゃないし。

赤ちゃんのための、お乳だから。

血だから。血から、つくられてるから。

あれじゃあ、産後すぐ痩せるよな。



たまに、充君に怒りを覚えて、

支配したくなる。充君を。


立場が逆転する。

充君は、快楽を与えたら、大人しくしてる。

その間は、私が支配者だ。


征服するって、暴力的な、陰の喜びね。


男という存在を、快楽の果てにぶっ殺したく

なるような感覚、

何度も味わった。


征服したい人は、征服されたいんだ。

これは、サディストでも結局は、

裏を返したら、それだけの時間に浸りきって、後から思い出して、

ずっとずっと忘れないのだろうから、

結局は征服されたいんだろうな、と思う。


攻撃したいって、男の性の特性。

きっと、自身だけじゃなく家族を

守るために、攻撃するのね。

なにかを守るために、男の人は本当は、出来ていると思うんだ。

攻撃が出来るように。

だから、戦争もしちゃうのかな。

闘争本能、闘争心って、

良く使えばいいのにね。


なんか、こうやって頭で考えるんじゃなく、

もういいから、

私の前で、ズタボロになって、死になさいよ

みたいな、また違う声だよ、

私じゃない考えが、スポッ、っと

入ってきて、止まらないんだよ。


充君は、そんな時は、私に完全に、

隷従をした。


そして、次は攻撃になった。

わかりやすく、殴るとかはしない。絶対に。


止まらない、私達は止まらない……って

思っていた。

これでいいんだ、も思った。

充君は、生活しながら、

仕事して、家族として暮らしながら

変な性の風景、それを同時に、維持していた。

ある意味バランスが取れてて、器用。


充君は、望んでた。どっちか、充君か私かが最終的に

壊れること。

体でも、心でも。

それが愛情の証。壊れたら、守っていく。

ってお互いに、無意識で決めてたんだ。


話し合ったわけじゃないよ。

充君が先に壊れたら、私はお世話をする。

私が先なら、充君はお世話してくれる。


もう出逢ってしまったから

離れられない。




高良がどこまで、端から見てて、

この異常性を


感じ取れていたか、はわからない。


私に、昔からの感情、

愛情、

を伝えてはきた。


でも…

高良が充君との関係を、崩したがってるのは

私には、迷惑だった。

本当に、ひどいけど。

高良が大好きだから、人間として。

異性じゃなく、人として。


私は悪い考えで、充君といて

高良を傷つけていると

思ってた。わかってた。知ってた。



高良が、実は、どんなに真っ当なのか…

私が、子供の時にちょっかい出して、高良がねじ曲がった、

ってのも。


どうしたら良いかは、

わからなかった。


それより、頭が痛い、

吐き気がする、

お腹が痛い、

倒れそう、

昨日の充君のせいで、おまた痛い・痒いみたいな、また病院行かなきゃみたいな、

目先のつらさだけ。


何とかしなきゃで。


時々、私は最低。

死ねばいい。

と思った。


でも、抱っこしている

こーちゃんは、きゃっきゃっと笑って、

まま、ままって呼ぶ。


こーちゃんを抱っこして、泣いた。














34 years old


占い師、を仕事にする気は、

本当はなかった。


今まで通り、子供の時から無償で

ご縁ある方々にだけ、してきたように

「占い師」って名乗らず、

お話を聴いて

一つの意見を、私見として

言うだけに、するつもりだった。



こーちゃんが、保育園に入れることになって、

それなら仕事するのが当たり前。


周りのママは、みんなそうよ。


あんまり、ママ同士交流はなかったけど、

ご自宅で彫金士してるとか、

フラワーアレンジメント教えてるとか、

そういうママもいた。


私、何ができるかな。


また、骨董店で働こうかな

と思って、

昔、知り合ったかたのお店や

社長にも、電話してみた。



店員より、占い師やれば?店の中で。


って、言ってくださった。


高良に話したら、


店員より向いているのでは


と言ったけど。

微妙な顔。

高良って、最初にありとあらゆる、

リスクやらリターンやら、考えるのよね。


ちょっとでも自由に、

仕事して自立心ある生きかた

はOKなんだろうけど。


占い師なんて、まあ言ってしまえば浮き草稼業。

そして、疲れるんじゃないか?心身不健全な

くせに…

って感じね。


それでも、充君を説得してくれた。

高良はどうやら、私が外出できれば、

もっとあっち行ったりこっち行ったり、

二人で過ごす時間、取れそうだ

って見込みで、動いてるっぽい。



占い師、と名乗って仕事を始めた。

最初の頃は、名刺があった。

お店で作ってくれたの。

業者さんに頼んで。

口こみが基本だったから、名刺はなくなり次第、作らないことにした。

お金かけなくて、いいです、私に

って言った。



何だか、もう。

神様のお計らい、お恵みとしか言いようが

ないくらい、

充君が「何これ」

って言うくらい、

御代を頂いていた。


独立することは、高良が最初に持ちかけたんだよ。

お店に、場所代を支払っていたのだけど、

そんなの止めて、好きな場所で好きなように、やれ

って。


高良がいたら、心強い。

一緒にやりたいなあ、

とぽろっと言ったの。


そしたら、一気に現実化した。


一緒に、

と言った時

高良がちろっ、とこっち見た。

あ。

高良がやる気出したぞ…

と、すぐ感じた。こうなっちゃったら、

止まらない。



占い舘は、高良と二人だけでも出来た。

でも、私には占いの生徒さんがいた。


その頃は、弟子というより生徒さん、

と呼んでた。


カルチャーセンター、カルチャースクールで、

占術を指導したことがある。


講師は、塾や家庭教メインだったから

お金のためじゃなく、

ライフワークと思っていた。


生徒さんにも、生涯学習と思ってほしかった。

自分自身、周りの方々、ご縁ある方々を

鑑定すること。

そうして、成長出来るように。


占い師養成講座というより、

人生が楽に、楽しくなるように。

人の役に立つことで

幸せや、喜びを感じられるように。


生徒さんの中には、今、ヨガの指導者に

なったかたや、単なる和食じゃなく、

精進料理、マクロビっぽいご飯のお店、

やってるかたも。

マクロビかな?私が、当時ヴィーガンだったからか、

その影響だったと思うのだけど。



〔私はこれを書いている現在、占い師を

ほぼお休みしていますが、

また講師やって、それでご縁ある方々と

繋がれたら良いなと

思いつき…

…ましたが、高良がなんて言うかな。〕



占い舘で、占い師経験を通して、

成長させたい人が、約2名いたの。


社会人より、フットワーク軽い2人。


一人が、雪白華(占師名)。

大学生だったから、

ってのもある。

重い恋愛経験もある子だし、年よりは

ずいぶん大人で、かわいくてコミュニケーション能力、高い。


少し、霊視の力に飲まれて、足元が危なかった。

そして、心の奥底で、人間って怖い、

って思ってる子だ。

まだ、定まらない。生きかたが。

大学生なんだから、普通に考えて、

当たり前だけど。



もう一人が、香雨翡翠(占師名)。

一応社会人だったけど、

医学部に籍残したまんま。

宙ぶらりん。


肝臓壊してホスト辞めて、辻占い師してた。

それでも、なかなか繁盛してた。

経歴をちらっと見ただけで、

フラフラした感じね。


私もそうだったけどさ!


白ちゃんは、カルチャースクールの講座に

直で来た子。


翡翠は、辻占いの最中、私がお客さんに

まぎれて、話しかけた。

半スカウト。この時点で。


で、覚えててくれて、講座に申し込んで来た。



後から、ベテラン占い師の瀧智慧さん、

占術の學びを生かして、臨床心理士している

能生さん、

が舘で仕事してくれる。

この二人は、もう大人だ。



瀧さんは、お姉ちゃんとも仲良し。

美人。

占いの不得意なし。

プライベートでは、女の先輩、

または友達だと思って、楽しく話している。



能生さんは、私が大学で心理を勉強した時、

一緒だった。

ちょっと、かなり、私が病気だったから。

それで、学術的な興味があったっぽい。

最初は。



高良は、白ちゃんと翡翠の面接をして、

採用したけど。

白ちゃんには、普通。

学校の後輩の女の子とか、

仕事場にいる年下女性に

ただ接する感じ。


翡翠には、冷たかった。

ただでさえ、怖そうに見える高良。

萎縮する翡翠。


その分、翡翠は

私に甘えて来たので、甘えさせた。


真顔で「先生が好きです」

と言う翡翠。

「ありがとう」

と返した。


家庭教でも感じたことだけど、

さらに不倫でも思ったことだけど、


年が離れた子からの、純粋な好意には

ありがとう


って答えるだけのほうが、

誠実じゃないかな。


ま、翡翠に関しては

優しくしてくれた年上の女性

ってか

優しくしてくれた年上の男性

にも

「好きです」

ってなるから。



3DKの中古マンションで、占いの舘を始めた。

楽しくて、楽しくて……毎日。


死んでいた日々が、命を吹き返したような感じ。毎日、誰か、ご依頼人様と関わって。


私の毎日は、こーちゃんか

充君に集中していたけど、

それが悪かったわけじゃないけど。


眠っていたんだ。ずっと。半分以上。


つらいから。生きるのが。

半分以上眠っていたら、生きるのが、

曖昧になる。



最低限、こーちゃんと充君のために、生きる。


高良は…、

もう少し

起きてほしかったのかも。

高良と過ごす時間のために。


高良が、色んなことを言いたくて、

話したくて、

頑張って口をつぐんでいるのは

わかっていた。


私は、高良は助けてくれる人

頼りがいがある、友達

お兄ちゃん、先輩、伯父さんみたいな人


と思うようにした。


荷物持つ時、半分こね!

と言って、袋の持ち手の片側を、高良から取ったり、


ハンドクリームで手をマッサージしたり、

肩たたきしたり、

普通にした。

そんなん、翡翠にもやるし

能生さんにもやる。

別に、異性は関係ない。


高良は、20代の頃と少し反応が変わって、

悲しい色を、空気にバーッと滲ませる。


前は、20代の時は、高良に触ったら

電気が出た。10代の時もそう。強度が違うだけ。



電気というのは、占い師として言うと

氣の波動とでも言うもので、

これに触れると、優しい霊は吹っ飛んでしまう。高良の電気は、強過ぎる。



高良は引っ込めたり出したり、自由に出来るようになったみたいだ。

こっちを見て、見るだけでも電気出してたのに、代わりに、

悲しみの青い霧雨みたいなやつ、

バーッって。

出す。


雨に触れても、特に痛くはないんだけど、

ドヨーンと暗くなる。

高良って、暗い。暗い念を持ってるなあ、

とは思う。



高良との関係が、急に変わって来た。

階段をのぼるみたいに。


階段が、急勾配に変わったみたいに。


今まで、ちょっと離れながらも

一緒にのぼってた階段。


高良から距離を詰められて

逃げるように、のぼらなきゃ

って感じだ。


急勾配だから、無理。これ以上は急げないな。


高良が後から、走るようにのぼって来て、

その内、ひょいっと抱っこなり

おんぶなりして

階段を完全に一緒に、二人で

のぼる。

ことになりそうだ。



それ、占い舘を始めたから。

そこから、避けられないことになったんだろう。

私は、意識の片隅で望んで、

高良を誘い込んで、巻き込んで、

呼んで、いたんだろう。


充君を愛する気持ちは、揺らいでなかった。


高良も愛そうと、思ったんだろうか。結婚

関係なく。

それは、ふしだらなんだろうか。

そうなんだろうな。


ふしだら

だと思う。


神様に、お尋ねしたことがある。


神様は、いっぱいいらっしゃる。


だから、高良を助けなさいとおっしゃる神様は、いらっしゃった。いっぱい。

充君だけに尽くしなさい、とおっしゃる神様も。いっぱい。

神様は、不倫とか

複数人と恋愛するとかについて、

駄目とは言わない。

事情によるけど。


今、充君に戻りなさいという神様も

います。

充君を看ること、充君に看られることが

筋…

とおっしゃる神様も。


でも私は高良の元にいるけれど、その神様も

私についてくださったまんま。


だから、お許しは頂いているのだろうけど。


なにが過ちか、

なにが正しいかは

これからの生きかたによる。


充君と話をすることくらいは、

高良に許してほしいと思う。

会うのが駄目でも。


高良については、

パパが、死んだパパの霊が

「応えてやらないのか?」って

時々言った。


パパは、高良が好きなんだと思う。

認めてるというか。だいぶ昔から。




舘に、高良と二人でいた時、

私が具合めっちゃ悪いとわかってて、

高良は普通に、ベッドに来た。


びっくりした。そういうのは、

もうないと思ってた。


こーちゃん産んだ後、

高良は私に失望してたはず。

充君の子供、産んだって思ってるから。


お腹大きい時は、絶対近寄ってこなかった。

あれだけ、何かと会いに来てたのに。



友達とは思ってない、友達には見てない、

癒されに来てやってる、

とかは言ってた。


それって、親戚の子、従姉妹に会うみたいな

もんじゃない?

遊びに、話をしに来てる、

面倒見に来てる、みたいな。



さすがにもう30代半ばになるし、

10代の恋心は、ないだろうって思ってたよ。

もう私は、充君の奥さんだ。

高良は充君の親友だ。


高良にも彼女がいる、

年齢的に、結婚するのが当たり前。

結婚するための彼女。



高良が冷静さを失ってたか、どうか。


いいえ。冷静だったと思う。いつも通りに

見えた。



あ、そこに寝てる。ラッキー。

って、そこまで動物的じゃないだろうけど。

よくわからない。

顔は普通だった、無表情。


その前に、体温計や水を持ってきてくれたし、

ベッド行く前についてきて、ブランケット

かけたり、してくれたはずよ。


そっからかな。ドア閉める?

みたいなやり取りあって、

やだやだ、閉めないで、一緒にいて!つったわ。これか。悪かったの。



え?ウソ。

くらいしか、思わなかったな。

高良がいきなり、そんなふうになるって

思わんし。


手が壁に激突して、

これやばいわ。と思った。

痛さの度合いが。

高良に言ったんだよ、痛い痛い痛い!!!って。


駄目ね。止まらん。

高良の顔は、変わってない。

別に、にやりって

してたわけじゃないけど。

止まらないどころか、加速だよ。

2回目の え?ウソ

って思った瞬間。


それ思うと、冷静ではなかったんだろうな…


28才の時の、高良の家でもやられたけど、

両脚を何ていうか、

限界まで開かせるみたいな、

折り曲げた状態ね。横に開かせるわけ。

ベッドにぐーっ、って押しつける

みたいな。


関節外れる、ギリギリ。

めっちゃ痛い。

しかも、手も痛いわけよ、

痛さで、心拍がドクン、ドクンってなってるから怖いよ。

手のほうが痛いけど、脚も痛いから

もうさ、エッチ中の声じゃないよね。

殺されかけてる声だよ。


高良さー… …

引くんだけど

「もっと泣け」つったからね。

まじ引くわ。


嬉しそうな顔したの、その時かな。

あー、充君と同類だな、とますます思ったね。


前から知ってたけど。


高良が気づいたか知らないけど、

翡翠が来たんだよね。その時。


その部屋ってのが、

マンション内の通路に

面してて。

翡翠ってさ、たまに裏口から入って来たのよ。

裏口のほうが、近いから。


で、通路歩いてた時点で、

ただならぬ気配に気づいたか、

気づくわな。


私がギャーって

言ったの気づいたか、

ま、気づくわな。

かなりな大声だったはず。

だって殺されかけ。


翡翠。

引き返したから、

ドアまで来てない。鍵も入れてない。

引き返すなよ!


いや引き返すか、普通。


高良は生の場合、生とか言ってるけど、

もう気にしないでね。


その場合、必ず外に出してた。今までは。


外出しとか言ってるけど、

もう気にしないでね。


あれって、タイミング計るよね。

つまり、冷静じゃなきゃ無理ね。


私は大人になってからも、

手で最後、男側がだよ、

手でやるの、嫌い。

見るのが。


だから、外に出すなら、

こっちも合わせておいて、

こっちが手で代わりに最後、出させるか

上半身起こして、

苦しいけど口で吸いとるか、

してたのよ。こっちは冷静よ。


生々しくてすまん。


高良はその時、だから、まあ完全に

冷静さはやっぱ、なかったんだろう。

そのまんま、中だしだよ。

あ、すまん。中出し言ってるけど。


3回目の え?ウソ。

って思った瞬間。


ん、2.5回目の え?ウソ

って思った瞬間あるわ。

翡翠が引き返した瞬間な。



しばらく起きれなかった。

脚が痛いから。

手も。

ちがう。

打ちのめされた。精神的に。


男って駄目だな。信じちゃ。

いけないな。

まず思ったわ。


あと、翡翠も結局男だな。高良の味方だな。

クソめ。(ごめん)



まあ、よいわ。

よきにはからえ。


ティッシュよこせよ、この豚野郎。

(お言葉、ごめんなさい)

垂れてくるんだよ。(すまん)


それくらいの気持ちだよ。当たり前よ。

痛いんだよ。

ほんとうに、痛いんだよ。

手も脚も、おなかも。

おまたもね。心もだよ。糞野郎。

(ごめんなさい)



高良は、それから初めて、ちょっと

どうしよう的な顔をした。


おっ、ちょっとかわいいな。?

と思った私は、駄目男製造業。



高良の気持ちとか、すべてわかってたから、

もう

よきにはからえ。

にした。



2ヶ月くらいは、ぶちぶちうじうじ、

ぐちゃりぐちゃりと、

気にしていたはず。


だったらヤるなよな。


その後、フランス勤務の話を聞いて、

高良がいなくなるほうが、

とても怖かったから、

嫌だ嫌だと、駄々をこねた。


重々しく、「もう止めよう」みたいな

感じだった。曖昧な関係を。


これが友達なのなら、友達を止めようって

ことだ。


縁、切ろうって。そのくらいの。


悲しくて、高良がいなくなることが。

私の狭い世界から、高良がいなくなるのは…

………

考えられないこと。


あんなに泣いたのは、

ママがくも膜下で、倒れた時以来かも。


不倫先生と別れた時は、逆にそんなに、

泣けなくて。

衝撃で、穴が空いたまんまで。

ふらふらになっただけ。


想像したんだ。

高良は、16才の時に

その衝撃を、私に体験させられたんだ。

私は、穴を空けたんだ。

高良に。


強く見えた高良は、立ち上がれないくらいに、なってしまったんだ。

そんなになるなんて、思ってなかった。


フランス勤務の話は、本当に希望は出してた。

でも、試してたみたいだ。

話したら、どんな反応するのか。



その話の後、手がボロボロになった。

舘にいるのに、私はずっと、手を噛んでた。

翡翠がびっくりして、高良に言ったって。

手を噛んでたのは、記憶にないけど

退行しただけと思う。



高良の彼女、なっちゃんは

赤ちゃんを授かっていた。


高良は結婚が決まってた。


なのに、「もう遠慮しない」と

言い出した。


白ちゃんや翡翠がいる時だったのに、

いつも通りの顔で、

完全に昔の感じで、あちこち触ってきた。

耳とか。がぶっと。


高良がいなくなるより、

わけのわからない

欲、雄ライオンみたいなもん、

この欲を満たしたら、

16才の時の、

高良が受けた打撃は…

治る?


長年の高良への不実。

それは減る?


どんどん、よりによって子宮の具合が

悪くなってた。

なんか、雌として弱まって来てる。


高良は感じ取って、最後、

償ってくれって感じだった。







































35 years old-Ⅰ


さて困ったな…

と思いながら、洋服タンスの前にいる。


あいつぜってー、襲ってくるよな。


その時の私の、手持ちの下着って、

all 充君の趣味。


彼は下着のショップにも、下着売り場にも、

平気で入る。

可愛い系、清楚系が好き。


高良がセクシー系好きなのは、なぜか知っている。が、私に似合うかよガーターとか。


お姉ちゃんが、前に貸してやる、つってたな。

不倫先生の時な。

わざわざ高良のために、借りる?

アホか!


高良の趣味に合わせる必要、ないじゃん。

だからって、襲われる前提で

毛糸のパンツ履けるかよ。


あーあーあー、神様助けて。


無難に白にした。白。


そういう一つの行動を、問いかけてみる。

神様と、自分自身に。



神様、これで良いのですか。

私は正しいのですか?


神様は、自分で決めることだよ、という

優しい目をなさる。


神様の像の前で、ひざまずいて

お祈りする。


真夏だった。

耳の奥で、昔、高良が弾いていたピアノの

音色が、こだましてる。


あんなに綺麗な音を、生み出す高良は

どこ行ったんだ?


今の高良は、泥まみれ。

仕事が、お金の仕事が、よくなかったんだろう。


それだけじゃない。

色々な女性の念が、周りに渦巻いている。

高良に近づけないだけ。

高良が気にしてないだけ。


高良は、現況…は、

すべて私に、責任がある

みたいな言いかたしてた。


胃が痛い。


窓から外見たら、眩しくて眩しくて、

それだけで倒れそう。


こーちゃんのお迎え…


翡翠や白ちゃんの笑顔…


つつがない日常。


充君に、ごはん用意したり、

家を掃除したり。


ソファーで、伸びをしたり。


お花を花瓶に移したり。


そういう、平和な光景が、

高良によって崩される。



困ったな。



また高良の、昔の高良のピアノの音がする。

私は、忘れてない。


指がかるく、はやく動いて音が出る。


強弱や、リズム。両手だけじゃなく、

足も使うし。

ピアノってすごいんだなあ、

それより、綺麗な音だなあ。


私が、ポンと押してもそれだけ。

音楽にはできない。


歌ったら、楽だから歌う。


高良の音。

濁りがないまま、

音楽になる。濁りがないのを、保ってる。



魂から、弾くんだと思った。

でも、高良は念を籠めてなかった。


心にある風景を、音にはしていた。

でも誰かに伝えてない。


人に聴かせるようには、まだ弾けてない。

交流してない。

私が、ずっと聴いてたら、

だんだん、私に問いかける音色になった。


あんなに、素直な少年だったのにな。




次の日、土曜日。

高良と二人に、舘でなるとわかってた。

日曜日も。


タイツ履いて、お腹が寒いから、

結局、毛糸のパンツ履いた。



普段通り。おはようを言い合う。

掃除しようとしたら、夜に翡翠にさせるから、掃除いいって言う。



座って、と手で示す。高良。

膝の上。


なんか…

たぶん高良はずっとずっと、別れたつもりなく、ずっとずっと、いたんだろう。

じゃなきゃ、こんだけ自然に、カップルの

スキンシップするわけないし。


28の時も、うっかりヤっちゃったの時も、

根本的には彼の中で、自然なこと

だったんじゃないかな。


お互い、

どっちか対面鑑定の時は「じゃあとでね」

って感じ。



二人の時は、またいかにも、恋人的な顔に

なる。


こんな顔してたかしらね。


まじまじ見ると、目を逸らす。

意味わからんな。



覚悟が足りない男だな。


本気で道を踏み外す気が、あるのか?



私は充君とどうなるんだよ。


捨てられるよ。充君は、浮気だけは離婚って

言ってた。


変な宗教?ならオケオケ、タマが騙されるわけないからね。


借金?ならオケオケ、50万円までね。(ローン?)


充君の声が、リフレイン。



ああだめだ、こんなことをしていては…。


と思いながらも、私はweb鑑定に集中だ。


ご依頼人様がいてくださる。

私には仕事がある。

仕事に集中してたら、意識は失わない。

正気でいられる。



とはいえ、怖くて死にそう。

私が大事にしてきたもの、

充君との家庭が、壊れていくんだ。


日常。

私の今までの日常は、平和だったかな?


わかんない。私の中では、平和。

高良は、なんで違うって言うのかな。

充君を否定するのかな。


二人は、友達ではないの?

友達の奥さんを、めちゃくちゃにしてOK

……か。


外道だな。


高良は、どうしてこんなふうになったんだ?

あんな、道徳的だった人が。


あ、それが私のせいか。



高良は、その日は具体的には、何もしてこなかった。

どっからが浮気か。もう浮気してるようなもの。


キスは、してない。

でもそのへん、あっちゃこっちゃ舐めたりしてる。性的な想いで以って。

これは完璧アウト。



服脱がされたりもないけど、肌が見えてる部分は、全部がぶっ、って感じだ。


充君は、見えない部分(たまに見える部分も)キスマークつける。

消えることない。どっかには、つけるから。


それ、見つけたら高良はがぶっ、として

ちゅー、として上塗り?上書き。


充君が気づかないからね。



舘出る前、シャワーした。

高良臭が。(失礼)



脱がされてはないが、まくってはいた。

スカート。

スカートめくり高良。

廊下に立ってろ💢




ますます…

昨日と風景が違って見える。


こーちゃんや翡翠の笑顔って、子供の笑顔。

だから、別世界。


ぼけーっ、としてしまう。気を抜くと。

ごはん作り中、火傷した。

その火傷に気づかなかった。


翡翠に、「うわっ」って言われた。

「先生水ぶくれがー」って。

おお。

痛くないのよ。





翌日から、迷い消えた。

腹くくったわ。


高良がしたいことは、だいたいわかる。

してほしいことも。


私は、金属製の手錠が嫌いだ。臭いから。

金属臭い。

悪いことしてないのに、

手錠。


高良から見たら、悪人なのかもな。

だったら、もういいや。

罪を償おう。


私はトイレが近いので、

一室に繋がれた状態だと、どうにもならん。

だから、服を汚さないように、色々考えて、

下着の隙間から

おしっこ。

パンツずらすの。

で、ティッシュでふきふき。

後で、掃除しなきゃな。


ふぅ。

ごめん、ここらあたりから、生々しくなる。


全然平気。

だって、義理父に車の中で、漏らせ言われてたし。


経験済みよ。


ってか、高良が押しつけることが、

嫌な経験に結びついたら、終わり。

嫌な気持ちになる。



だから、考えないようにする。



高良がいる状態でも、同じようにして、

危機を乗り越える。

片づけは、高良がやってくれる。

彼は、見たいだけだから。

世話は、命令する人の仕事だと思う。




私は気づいていた。

高良を通して。充君を通して。

他の男の人を通して。

そして出産を通して。


男って馬鹿だ。

女よりは、馬鹿だ。少なくとも。


というのは、生命を体に宿さないから。

本質的に、性の真面目さや尊さを、

理解できないんだ。

頭でわかることじゃないもの。

痛みで、体に刻まれることだもの。少女の

時代からよ。

毎月の出血、毎月の痛み。

痛みだけじゃない。苦しさ。煩わしさ。

食べるものも変わったり、食べらんなくなったり、味覚変わったり、

感情の起伏も変わってしまう。






義理父って、単に遊んでたんだな。

人を傷つけるとかまで、頭回らなかったんだ。


お姉ちゃんや私の、その後の人生に

影響するとか、


女性性に悪影響とか、

考えられなかったんだな。



高良のしてるのは、遊びに見えた。

子供の時と同じ。

また、遊びたかっただけなのね。


その底に、愛情があるのはわかってる。


でも、性的な行為は、工夫して変なこと

すればするほど、遊び。

より快楽を得るには?

それは遊び。遊びの追求。

何ごとも勉強だけどさ。



高良が車の中で、エッチする時に

不意に違う光景が、別の時代が視える。


暗がりで、キッチンの床下や

屋根裏で、

小さな高良が、小さな女の子と

かくれんぼしてる。


かくれんぼ中、お互いに体に触りあう。


ああこれが、高良の最初か。

近所の子かな。


一緒にピアノ弾いてたんだな。友達かな。

女の子が、ちょっとお姉さんなのかな?


それを、同じことを、中学生になってから

私にもしてる。

体育館の倉庫。

図書館の書架の陰。




高良は、理性だけで生きてるから、普段。

性欲は、なりを潜めてる。


言葉をかけて、欲を引き出してあげないと、

なかなかいかない。イクまで長い。


適切に、言葉で許しをあげる。

エッチは本当は、罪だと思ってる。

でも、許しによって一気にちゃんと普通に、解放される。


だから私が好きなのかもな…。

と思ったりした。


相変わらず、高良はよくわからない。


難しい性質。



あんまりひどいことは、されてない。


高良じゃなく、充君のせいで

痒みや痛みが出たら、

市販の膣錠を使った。


webで買えた。薬剤師、という人からの

設問に、一応回答しなきゃだったけど。

(使用したことあるか、アレルギー体質じゃないか、など)



病院、婦人科行く日なら、ついでに

洗浄してもらえる。


炎症はなくて、調子よくないだけ。


雄ライオンが二頭、近くにいる時期だ。

自浄作用、強化されてたはずよ。



高良は、膣錠を入れてると言えば

しない。

下は触らない。


体のどこかに触ったり、キスくらいでOK。

手+口ですれば、満足。

そこに一緒にいて、高良に好きと言ってれば、満足な様子。


だから、何も変態プレイする必要はなかったはず。

10代の時を、再現したい

10代の続きをしたい

っていうふうに、私には思えた。


今まで、これを試して来たけど

どう?

って感じに。

これ出来た!褒めて!

という、ワンコに見えたな。私には。



高良は、もうエロで商売が出来るくらいに、

体のつくりや理論を、知り尽くしていた。


研究熱心が、こんな分野で成功を収めていたわ。


技巧なんかどうでもいいけど、

どうせなら気持ち悪いより、気持ち良いほうがいい。


それだけじゃなく、一回一回、一動作、一つの言葉、全部

愛情が籠められていた。

高良は、正しい愛情を知って、育ってる。

だから、自然に出来るんだ。昔から。

だから、高良が好きなのは嘘じゃない。



でもあんまり、エッチなんかしたくない時がある。

外(車の中)なんて、なおさら。


体が動きたくない。

眠りたい。

仕事なら、出来る。

愛情確認で体が必要なのだったら、

愛情があるのなら、

無理強いしないでほしい。


充君は、これは聞く耳がなかった。

拒否すると、拒否してる言葉、態度が

逆に火を点ける感じだ。


私は怒りを感じたら、充君に対して、

支配的になる。

すると、そっから立場が逆転する。



高良もそういう面があった。


私は、よく見ていた。

高良がどうするのか。


私が怒ると、高良はじっと顔、目を覗き込んでから、

いったん離れた。

お茶淹れるとか、外なら飲みもの買ってくるとか。


で、慎重な感じ。


本当は、「やらされる」のも

好きじゃない。

口でやるとか。


手のほうが嫌だな。

子供の時、嫌な思いしたから。


口でやるほうが、さっさと終わるのもあるから、口。でも好きじゃない。

私が、してあげたいって時なら別だけど。


そんなのは、やって

とか やれ

とか 言われることじゃない。

命令なんかされることじゃない。


マッサージと同じではある。

最初から、望んだわけじゃない、上手に出来た。

だから何よ。別に好きじゃないよ。


ってのを、高良に対しても思って。


その怒りを、高良はすぐ感じるらしかった。

中断していいと言った。


昔は、そんなこと絶対言わなかった。

もっと突っ込んで来るだけ。

手を抑えたり、または

縛ったりして、しかも

寝てる状態で、突っ込まれたりした。


吐いても、笑ってた。


私は、高校生になった高良が、

中学生の時の優しさを、ちょっと失った

ように、思っていた。


男というのは、豹変するんだ。

高良ですら、大好きな人ですら、するんだ……。と。

接しかた、私の接しかたが、悪かった?

じゃあ、どうやって直したら良いの。

わからない。離れるしかない。


高良に限らず、充君に限らず、

かなり年上の人でも、そうなることがあった。



中断になると、

今度は拒否されたような、

申し訳ないような、変な気持ちになる。


全裸のまんま、陽あたりの良い仕事用のマンションで、

または絵を描くためのアトリエで、

泣く。


傷つけたくなる。自分のことを。

手に噛みついてると、高良はゆっくり来て、

服を着せて、


名前を呼んでくれる。繰り返し。


すると、なんか、大丈夫な気になってくる。




家に帰ると、

充君にどう接したら良いか、

わからなくなる。


家事をしまくった。


部屋中ぴかぴかにして、

ご飯のおかずを多く作る。



こーちゃんのお世話は、いつも通り。


充君には、絶対逆らわないようにした。

嫌なことをさせられても。


耐え切れないことは、まだなかった。

何かでイライラしてて、

ちょっと大きな声を出されると、

怖い。それに、こーちゃんに

聞こえたら大変だ。


充君は、こーちゃんに配慮してなかった。



病院で、病名、病気のステージがわかってくると、

高良は塞ぎ込んでいった。

暗く落ちて、食欲もなく、仕事も適当に

やってる感じ。

本当に適当かは、知らないけど。



エッチよりは、一緒にいて

という静かな、優しい時間になってきた。

二人でごろん、と寝そべってるだけの時もあった。

そっちのほうが、安らいだ。

体にも。心にも。




充君は、逆だった。

もう死ぬことが、見えてる。


だからか、いっぱいしよう、死ぬ前に

毎日寝よう、という感じ。


男の人は死にかけたら、子孫を残す働きで

性欲が増す、らしい。

充君の場合、私に同調し過ぎてて、

充君が死にそうだった。


だからなのかな。



夜、充君が帰ってくる前、

お腹が痛くなって、陣痛のようになった。


陣痛なら自然だけど、その痛みは

中から魔物でも出て来そうな、

食い破られそうな痛み。


ボルタレンを1シート以上、それ以上?飲んでしまった。

ラムネみたいに…。


それでも、痛みは引かなかった。

この世には、どうにもならない痛みがある。

心と一緒、体にも。


死を意識したのは、何度もある。

病巣によって、死の気配を感じたのは初めて。


浮かんだ顔は充君でも高良でもない、

こーちゃんの顔。


トイレの壁と床が、ひんやりとして

気持ちいいのか、寒いのか

わからない。

お腹は熱くて痛い……


トイレのドアの外に、誰かいた。

パパ。私がつらいと、

パパは天国からいっつも、来る。



35 years old-Ⅱ


その日、その夜、直前まで

まさか高良を呼んで、助けを乞うことになって

高良の舟に乗って、もう二度と充君のところに

戻れなくなるなんて

思わなかった。



タマー

おいで。

と、猫呼ぶみたく、いつも通りに充君は言った。

ベッドによっこらしょ、と乗る。

この瞬間、私は確かに猫みたいなもんだよなあ、

と思う。自虐的。


充君はサプライズが好きだけど、

隠しててもわかる。


また変なモノ買ってきたわ…

どこに売ってんの?

ネットじゃないよな、これ。


見て、すぐ

気持ち悪いと思った。作った人、ってか

考案した人、絶対男だし悪意がある。


性具とか責め具とかじゃなくて、人殺しの

器具だ。


これ何?

こんなのは、違うよ。

と充君に言った。


怖いのは、充君がいつも通りで、普通で、

普通のことと思ってて、


大丈夫、今日すぐじゃないよ。

ちょっとずつ頑張ろうね。

と、にこっとしたこと。


ローションもない。私はたまたま、元々

ふだんから濡れてる?湿ってる?

というか、まあ、いつでもスタンバイOK

みたいな、

便利な体質だった。


だからか、充君、イケると思ってた。

殺す気かよ…。


ちょっと、もう、笑っちゃうっていうかさ。

笑うしかない。


一応、指から入れていた。

でもね、処女じゃなくてもね、

経産婦でも、男の人の指、4本はきついのよ。

3本でもけっこう、その人の指の太さによるが、きついよ。



ここらで、指の時点で出血があったはず。

これは不正出血だった。


その道具、

いやいや口径がもうおかしいだろ、

と思って、充君は…

おかしくなったんだ。と初めて気づいた。


正気じゃないんだな。



入るとかじゃなく、それの先を動かされてる内、破けて、裂けて血が流れてる。


充君は、暗いから気づいてない。

男は馬鹿で間抜けな生き物。また思った。


血も、愛液と思い込める。


死ねよ。

くらいに思った。

充君に対して。だって殺そうとして来るんだもの。



痛いよー …

パパ、たすけて。

痛い、痛い、痛い、痛い


白光が、ぱっ、ぱっ、と瞼の奥で

羽みたいに、みえた。


ずっとずーっと昔、こんなことあったな、

いつだったかな。


私、ばちが当たったんだ。


意識が途切れがちになって、

あれ、おかしい、と思う。


眠たい時みたい。


眠い……


胃が、胃まで、痛い。心臓も。そこまで

貫かれたみたい。

充君は、道具やめて、普通にしてる。

なんでこんなに痛いのか、さっきのが悪かったのか。


痛いよ、痛いよ、怖いよ。充君は、私が

しんでも

いいんだ。


私、ばちが当たったんだ。


充君と結婚してるのに、高良を愛してるから。


高良が、彼女のなっちゃんと結婚式をした日、

私はアメージンググレイスを歌った。


祝福の歌を。


神様、祝福に迷いも嘘も、なかったの。

なのに、許しては貰えないの。


純度が足りなかったの。

完璧な純粋じゃないと、許しては貰えないの。


聴いて、涙を流した方々は、なにを

捉えて、泣いてくださったの?


私の存在はなんなの。



神様を降ろすとき、私は筒のようになる。


男という存在を、前にする時も筒だ。

私は道具でしかない。

神様の道具になら、喜んでなる。なれる。


神様は、私を捨てないから。


充君は、私を捨てない?捨てる?

捨てないで、殺す。


なっちゃんが、私に、謝る。

高良と寝てるってこと、私が。……

なっちゃんは、知ってた。

なのに、だから、ごめんなさいって。


なっちゃん、なっちゃん、高良が好きだったのに、どうして高良に、全霊でぶつかれなかったの……


なっちゃん、怖かったんだよね。高良が。


ごめんなさいって、本当は私にだけじゃなく高良にも、言っていたんだよね。


怖くて、愛しきれなかった。ごめんなさいって。

高良に直接言うのも、怖くて仕方なかったんだよね。

でもなっちゃんは、高良をとても、愛していたんだよね。



充君が眠ってしまう。

いつも通り、寂しい気持ち。


シャワーをする。あたためたら良くなるかと思ったのに、血が

どんどん、流れていく。


あ、駄目だ

貧血。


朝の分の鉄剤を、飲んだ。

ロキソニンがあったから、2錠飲んだ。


たまに多めに不正出血するから、

あと下痢とか間に合わない時あるから、

オムツがあった。オムツつけた。


寒い。体の寒さは貧血。

心の寒さは、充君がもう私のこと、

半分死んだ人みたいに、扱ったから。


高良、高良、

頭の中、いっぱいに高良が浮かんだ。


助けてくれるの?高良は、助けてくれるの?


電話したら、物凄く低い、落ち着いた、

高良の声だった。



家を出る前に、書き置きを充君にした。

なるべく、事務的に。

こーちゃんのお部屋で、こーちゃんの頭を撫でなでして、すぐ迎えに来るよ、びっくりしないでね、とお祈りする。

こーちゃんを、常に守るお祈り。

神様が、守ってくださるお祈り。


神様のお人形に、お祈りしていたら高良が

「着いた」とline。


こんな時間に、外に出たことないよ。


マンションの通路の、灯り。

エントランスのところの、優しいオレンジ色の灯り。夜中でも明るいんだ…

初めて見た。

外に、夜中に、私はいる。

いつ以来?

家庭教とか塾で仕事してて、遅くなって、

終電になった時以来。


高良は車から降りて来て、走って来た。


手すり、掴んで階段降りようとしたら、

ひょいっ、と抱っこされた。

高良のジャケットから、秋の、夜中の空気の

匂いがした。深く、吸い込んだ。

深く吸い込んだら、高良の匂いと、高良の家の匂いと、香水の匂いした。


涙がいっぱい出た。止まらないくらい。

涙は普段、どこにあるんだろ。

準備されてたみたいに、だーっと出た。



充君のことを話したら、高良は怒っているのがわかった。

抑えてるけど、怒ってる。物凄く。


病院行ったら、病院も明るい。

たくさんの人が起きていて、仕事をしている。

助けて貰える。

助けて貰えることが、有り難いのと

充君にされたことが、情けない

恥ずかしい

怖い

悲しい

で、また泣く。


お医者さんまでが、怒った顔をしている。

看護師さんが、かわいそうに

と思ってる。

看護師さんに、

赤ちゃん産むところだからね

と言われた。

わかってる。



高良の家に行った。なっちゃんの気配は、

全くなかった。残留の念も。


広くて、高良にくっついて歩いた。


手を洗って、うがいした時に鏡を見たら

顔色が白。半紙みたい。

高良の家の洗面台が、大きくて明るいからか、

体が病んでることが、よくわかった。

病的に痩せてる。

高良の家の鏡は、水晶みたいだ。真実を

映し出している。


広過ぎて脚が浮くような、泳げるみたいな

ベッドで、一緒に眠る。

高良って、狭いベッド嫌いだよなー

と、改めて今さら、思う。


ここで寝てるんだな、

と思う。前にもこういうこと、思ったな。

28才の時にも、中学生の時にも。


体全部、絡めとられる感じだった。

優しい。包まれる。安心した。




次の日からは、今度は落ち着かなくなった。

私は我慢するべきだったんじゃ、ない?


充君は、今、体をもぎ取られたような気分に

なってる。

行かなきゃ。


行って、抱きしめてあげないと…


高良は、絶対に駄目だと言う。

会わないこと。

裂けて、縫ったところが治るまでは駄目。

それに、二人きりで会わないこと。


充君に、高良が話をした。

静かな話し合いだったみたいだけど、

彼らが話し合うのは、この先もあるんだろうから、どっちかが激昂するとか…

を想像すると、恐ろしい。

それはないと、思うけれど。



こーちゃんのこと、高良は夕方、

仕事を抜け出して

保育園にお迎えに行った。園バスじゃなく。


私は保育園に電話して、

トラブルがあり、パパ(充君)でなく

友人の○○さんが迎えに行きます、

と言った。


主任の先生が、どう思ってたか。

運動会とか展覧会とか、いっつも青い顔して、フラフラしながら来る

こーちゃんのママ(私)。


やっぱDV→そいでもって、不倫か。

って感じだ。


仕事なわけだし、高良はスーツびしっと着てるわけだし、まあ、対応やら車やら見て、

不審者には思わんね。

人って、見た目で判断する。

怪しいかどうかは、

話したり、目線でもわかるけどさ。


こーちゃん、高良に慣れてたし。


こーちゃんのほうが、落ち着いてた。

高良の家を、探検してた。


「おじさん(高良)と住むんだよね」と、

あっさりと言った。

こーちゃんにとっては、親戚のおじさん。

ママのお兄さん的な。



高良の家は、騒がしい街なかのマンションで、買いものや何かには、便利。

歩いて行ける。

着飾った人、若い子の集まる、活気にすぐに触れる。

ちょっと歩いたら、何でもある。


なっちゃんじゃなくて、高良が選んだ場所なんだろうな。

高良は、寂しいのかもな。本当は。

なんとなく思う。


路地入って、歩いて、マンション敷地内に

入って、建物内、室内に入れば、閑静。

静けさ。

だけど、ちょっと出たら賑やか。


なっちゃんは、このギャップに尚更、

寂しさを募らせたんだわ。

人が寂しさを感じるタイミングは、それぞれ。

高良には良い場所でも、なっちゃんにはつらい。

歩いて、すぐブランドのショップがある。

店員さんて、ちやほやしてくれる。

あれも買って、これも買ってって。

怖いくらい。近寄って来る。

当たり前。それがお仕事。


慣れてないと、いらない、って言いにくい。

自分自身が、どっしり確立されて、保たれて

ないと。


なっちゃん、寂しくて、散歩がてらお店に

入って、いらないけど、買っちゃったんだよ。


高良は、私に

「お前はそんなことがない(欲しがらない、買わない)のに、何で他の女は。疲れる」みたいな感じで言う。

だけど、

よく考えたら、わかるでしょうに。


高良の家を掃除したら、充君の家に行って、

掃除した。

ご飯作りして、高良のご飯も作った。

だから、高良の家のキッチンで、毎日

作ったわけじゃない。


なっちゃんのキッチン、とまだ私は思ってた。

主婦にとって、キッチンは聖域。

お料理好きなら、尚のこと。


誰かに入ってほしくないはず。


高良は、お金は勝手にお財布に入れてくれた。

レシートは、提出して、って。

舘の経理と同じ。記録してるから。


お金があるからって、高良はどんぶり勘定は

絶対、しない。


私のカード、まだ充君の名字。

離婚になっても、まだ高良と、結婚するとは

決めてなかった。


カードの中の一枚で、まず私の口座から引き落とされるやつ。それ使った。


高良に負担かけたくないし。

自立してないってことは、買ったものに

ケチつけられるってことよ。

不自由だから、自分で決めて自分で買うの。



充君の家に行くと、高良は思いきり不機嫌になった。隠さない。

あんまり喋らない。雰囲気暗くなる。

じーっと見てる。

ソファーに座って、本読んだり編みものしてると、

甘い空気じゃなく、がしっと、ロックオンな

感じで抱きついてくる。

お。動けんぞ。

プロレスか!


高良が、プレイ(儀式)なのか、何なのか

でしてきて、

精神的に困ったやつがある。



高良の家には、ベッドが3台あった。

寝室に2つ、

高良の部屋、水晶や本がある書斎に1つ。

どうも、なっちゃんと一緒の部屋にもいないで、一人で寝てた時、あるらしい。

新婚なのに。


そのベッドには、こーちゃんが寝ていた。


寝室の、なっちゃんが寝ていたベッドは、

ノータッチだった。

そこで、何でなのか、

そこに連れて行かれた時、

と思った。


一応、裂けたのが治って。エッチ可になっていた時期だ。縫った糸は、皮膚に融けるやつだった。


高良的には、元妻(まだ離婚成立前)の

ベッドでヤる

ってのは、

風流??

だったのかも知れない。

背徳な風情が。

燃えるのか知らんけど。


私は、なっちゃんがどんな思いだったのかが、視えるんだ。

視せようとしてたのかな。

風流だから?


それだけじゃなく、なっちゃんの新婚生活の

悩みも、鑑定中より視えるんだ。


それだけじゃなく、高良は私の力を

あなどり過ぎている。

高良の、歴代の彼女の気持ちまで、遡って

視えるんだ。


変なプレイしたやつとか、全部な。

ナメんなよ。(お言葉すみません)


だから…

高良が、大学の時に付き合っていた人、

彼女の気持ちが一番、強力で。

視えるどころか、共振してしまった。

私が、その時は彼女になってしまった。

彼女の気持ちに、なっていた。


変な感じだった。

高良は大好きな人。それ同じ。

でも私じゃなくて、私の代わりに体を捧げている彼女。

とても献身的で、巫女的な人なんだ。とても

綺麗な人だと思うよ。

高良は、食べ尽くして、「やっぱり口に合わない」くらいの、酷いことをしたんだ。


食べ尽くして、食べ尽くした罪悪感で、

胸やけして吐いた。

高良なりに、きちんと誠意は、尽くしたんだろう。

普通に、笑い合ってる光景も視える。

この笑顔は、真実ね。

高良、ちゃんと笑いかけてたんじゃない。

あんまり笑わなくなった、って人が。

特に、悲しいだけの時期だった、って人が。

代わりじゃなくて、恋人と思って、笑いかけてるじゃん。


どうして、友達にならなかったの?

友達になってたら、優しい縁を繋いでいられたのに…

でも、この人は命を懸けて、高良を愛したかったんだ。


私は……

高良、と口に出したけど

心の中で高良君、と呼びかけてた。

この人は、エッチ中に高良君と呼んじゃ駄目だったんだ。

うわあああ

って、泣き出した。

引き裂かれながら、無理強い、絶対的な命令、されなきゃならなかった、女の子の気持ちが、

高良みたいな男には一生、

一生わからないだろう。


若い内に、少女の内に高良のような、

魔術師にめちゃくちゃにされた女の人は、

もう、立ち直れなかったんだ。


私はなっちゃんのベッドで、そこまでを視て、高良は普通にヤってるだけだし、

気が狂いそうだった。

この時ほど、霊力とか女の性だとかを

煩わしく、要らない

と感じた時はなかった。




とうとう入院になってからも、

高良はふっと、私に対して、殺意を抱いていた。

自分勝手で、身勝手で、美しくて、高貴で、

優しくて、ありがた迷惑な殺意。


苦しみから救いたいとか、

死んだら完璧な完結とか、

そんな想い。


わかるのよ、看病してくれる高良自身も苦しいし、

無理心中してしまいたい、と

同じような環境で、同じような心理状態に

なったことがある人にしか、

本当にはわからないと思うよ。高良の気持ちは。


海外でお医者さんになった、高良の友達と

その頃、彼は頻繁にやり取りしてた。

その人は、安楽死推奨派。高良の考えを、

肯定してる。


私は、生きるほうが美しいと思ってる。

死で完結する美しさには、狡さもある。

弱いし、とりあえずは周りの人のこと、

考えてないよね。


生きる強さは、死を選ぶ強さに勝るはず。

儚い美しさは、物語に求めたらいい。

それで充分。物語にならないくらい、

醜く生きる。そしたら、それが最期、

美しさに変わる。


高良に、こーちゃんは高良の娘だって、

とっくに伝えていた。

裁判で使う、親子鑑定もしてた。

だからこそ、高良は充君を強く除外したし、

私を守ってくれたし、守ってくれる。


私が死んだところで、何食わぬ顔して

生きてほしい。

こーちゃんを守って、生きてほしい。


いったんは、納得してたのに。

静かな病院で二人きりでいると、

高良は静寂に呑み込まれて、

人の命を葬るっていう、闇にすごく、

誘われていた。



手術前後は、きちんとした記憶じゃなく、

その時その時の映像しか、覚えていない。


手術中の映像(記憶)があるから、それは

体から離れて、視てたやつだ。


こーちゃんと、フランスで暮らす…

もし何かあったら。と高良。

英語の委任状、高良に確認して貰いながら、

書いた。


痛い記憶。ない。

薬は効いてた。


眠くて、夢で泳ぐみたいな時間が、楽しかった。

無理に食べさせられた。高良は、何かを

食べさせて来てた。

味はしなかった。だから、食べたら、

ほっとしたように笑った。


あ、高良が笑ってる。

嬉しくなった。


手術の映像は、音がなくて、

白い光に包み込まれていた。


人を助ける意識が、お医者さんたちを

包んでいた。

彼らは、ご飯食べる為の仕事だからって、

それだけで

やってる人もいるけど、

自身の魂の仕事、とわかっていて、

集中して、高潔な光に守られて、

生きた仕事している人もいる。



有り難いことに、私の体を助けてくださって

いたのは、そういうお医者さんの、

チームだった。



そこからは、映像が飛びすさっていく。


高良が、中学生だった高良がピアノ弾く。

私、夕方の朱色が部屋いっぱい、満ちた中で、聴いてる。


充君が、ネクタイを輪っかにした。

だめ、だめ、だめだよ!!邪魔した。


ああ、手が…

手が透き通ってる。私の手。

何でだ。あれ、私死んだの?

でも、充君は、絹の布だからか

失敗して、ドンッ、って凄い音たてて、

落ちた。


充君のお仕事の部屋。


机の上に、椅子乗っけて、椅子、蹴って


椅子は滑って、床に落ちてる。

充君、あなたは罪人の

死にかた、選ぶわけなかったはず。

どうしてよ。


私はまだ、死んでないよ。生きてるよ。

生きてよ。

独りじゃ、生きられないの?


充君の魂に問いかける。

あなたは

独りじゃ、生きられないの?



高良とこーちゃんは、空の中。

すぐわかる。

わかるから、飛んでいける。


高良の膝の上、乗っかる。

ほら、気づいた。高良は、わかるよね。


でも戸惑ってる。


こーちゃんのほっぺを、指でつつく。

透き通ってる。指が。

こーちゃんは、たまにほっぺを、ぺたぺた触る。わかってるのかな。一応ね。


3人でいられる。

高良は、触ろうとしたり位置を確かめたり、

口に出さないで、話しかけてくる。

かなり、正確にわかっている。


抱きついたり、キスするとわかってる。


望んだままなら、体から離れて、

体が亡くなっても、3人でこの形で、

いられた。ずっと。


充君の魂は、生きようとしてた。


だから、私も体に戻った。




起きてからしばらくは、また記憶が定着して

ない。

充君の体を、動かす為には私の体の一部、

どこかを神様のおひとりに、

お渡しする必要があった。


神様は、一度借りる、後から還す

とおっしゃった。


だから、指を切るとか、消滅の方法じゃ

駄目だ。


血を差し上げたら良いと思った。

手首より

肘だと、肘近いと、もう少し皮膚が切れて、

血が出やすいって思った。

点滴する場所だもの。



病院に高良が来たら

すべてが

静まり返った。



窓から、雪が降るのが見える。

赤ちゃんも、降っている。


高良に、手を繋いでと手を伸ばせば、

手を繋いでくれる。


抱っこしてと腕を伸ばせば、

抱っこしてくれる。


ほっぺでも口でも、手の甲でも、

性的な意味じゃない親愛の時の、キスもくれる。



高良には、最大のお願いをした。


充君を、介護したい。


充君は、首を吊ったから

死の淵まで行ったから、

脚が麻痺して動かなくなった。


お話も出来ない。

私は充君と歌ったり、

充君が歌うのを聴くのが、好きだった。


自殺の行動は失敗したら、失うものが大きい。

充君は私が、危篤になったから

一緒に居たくて、

自殺をしようとしたんだ。


こーちゃんも、高良と行ってしまったから。

充君は、こーちゃんが充君の子じゃないと、

わかっていて、育ててくれていた。


でも、こーちゃんも奪われた、って考えていた。


私に暴力を奮ったとは、ずっと思っていなかった。


望まれた愛情を注いだら、

離れてしまった。なんで?

って。



高良は、充君を助けると言ってくれたけど


高良のやりかたで、助ける

というような答えだった。


助けるけど、

このやりかたに、従ってくれ

という。



この、やりかた

って何?

と思ったけど、言えない。



家族みたいに暮らせたら

みんな、

恋愛じゃなくて

家族愛じゃなくて


ただの愛


隣人愛


それで暮らせたら、

と思った。


難しかった。



近くには、住んでいた。

今は、少し離れたところに充君、

住んでいる。




まだ退院したばかりの頃、

真冬。



私が充君の家に行って、話して、

触れ合って、

だけど高良が来たら


充君は、目に涙いっぱい

溜めてた。

私はあの目、忘れない。


大好きだった猫、取られたみたいな。

そんな目に似てる……


虚ろな目。寂しい目。

わからない。わかんないよ。高良ももしかしたら、ずっとあの目を、していたのかもしれない。20代の時には。




高良は充君に、復讐してた。


でも充君を、決して嫌ってはいないんだ。

歪みながら、好きなはずなんだ。


高良は、私連れて充君の家に行く度、背筋が寒くなる

ことを、言う。復讐として。


「お前が使ってた人形、返して貰ったよ」みたいなこと。

人形ってのは、わざと遣ってる単語。

充君の前で、触ったりする。そんなに露骨な場所じゃないけど。触りかたが、性的な触りかた。


キスもしてたけど、口じゃなく。

首筋とかだけど、スーッって舐めたり、ただのキスより、もっと嫌な感じ。そう見えたはず。


「お前が主人だった時も、こいつは俺の飲んでたよ、口でもヴァギナでも」

とか、ひどいこと。酷い言葉をかける。


高良は普段は、悪い言葉や

直截的な単語は、遣わない。

効果的な場面でしか。


私は恥ずかしいと思っていた。

自分自身もだし、高良のその言動も。

いや、やっぱり自分が悪いな。

高良にやらせてる今までの、積み重なり。私が悪い。


気が済んでから、といっても何度か、似たことを充君に対してやって、

後は高良、やらなかった。

言わなくなった。


言わないで言わないで、と

高良に私は言った。

高良しか、好きじゃないから、充君には言わないでよ

って言った傍から、

高良はちょっと笑ってた。

暗く。

充君に気持ちが残ってます、って白状させられたようなもの。



一緒に暮らすようになってからも、

高良は一部、心の中を閉ざしてる。


お前に見せるには、汚い

見せられないみたいなことを、言う。


高良は汚くないのに。

人間はたくさんの面を持つ。でこぼこした

お石。インクルージョン、いっぱい。


貴いお石。


見せてほしい。


見ても私は、もう誰も、嫌いにならない。

人が好き。












36 years old


2018.10.18


現在入院中ですが、退院も決まって、

落ち着いた午後に、これを書いています。


秋の、強い陽ざし。

昔、高良が弾いたドビュッシーの曲。

その音源を持ってきて貰い、一緒に聴いています。


“アラベスク第1番

月の光(ベルガマスク組曲)

夢想

喜びの島

美しい夕暮れ”



高良は、本を読んでいます。


高良が書き始めた私小説「絶刻」の

片側。私からの目線「鏡界」。

これを、いったんどのように、

閉じようか、考えていました。



亡き父、パパ

への手紙形式に、しようかと思っていました。


でも、これをこうして、お読みくださった方々の中には、

私が占い師として、web鑑定を始めて、

ご縁を頂いた方々が、多くいらっしゃいます。


だから、皆様に語りかけることに致します。

文中でも、ちょいちょい語りかけてしまいました。

失礼致しました。


高良は、ぱっと見、非の打ちどころがない

かもしれません。

実際は、人間なのだから

凄く凄く弱い脆い、崩れやすい面もあります。


ぱっと見、彼は恵まれまくった半生かもしれません。

実際には、投げ出そうとしていたくらい、

普通に悩んで、苦しんで来た半生。



私は、ぱっと見、不幸な星に生まれついて

いたかもしれません。


おかしくもなりながら、今もちょっと、

いやだいぶおかしいですが、

生きています。


精神も。身体も。


癌は一回、休んでるだけでしょう。

自分自身の細胞だから、次を再発と

呼ぶよりは、始動か。と思います。


怖くもなく、その時を一緒に過ごします。

体の一部なんだから。


思っていたより、心臓に負担だったようです。手術も。これまで生きてきた間、

感じてきた、あれこれも。


その結果として、爆発する心臓なら、

それでやっぱりいいです。

休みなく、働いてくれた体。この世での噐。



毎日毎日が、幸福です。

神様がくれる光を、飲んでいるようです。


子供の時から感じていた、魂の冷えが、

今はもうありません。


この世界、物質の世界にある、様々なモノ。

食べものや、品物といった、

目に見える物質よりも……


人の心。念。

魂。

まばゆい光と暗闇。

それを視ていたいです。体がある状態で。


体がなくなってからも。


近いところに集まっている、家族や友人の

心。

近くでなくても、祈りを捧げたい方々。




真面目なことも書いていますが、普段は、

変なこともたくさん言っています。



この先、したいこともいっぱいあります。


宗教法人化なんてしないけど、

高良がせっかく持っている、財産。


寄付だけじゃなくて、建物などは、

住む場所に困っている方々に貸すとか。


現実的には、とても難しいことです。


だから、占い舘のメンバーであったり、

ご縁が深い方々に、限られます。



占い師っていうのは、世間では

流れ者 というか、

悪くすれば詐欺師が大勢いますし、

単なる無職じゃん、みたいな人もいますね。


国家資格なんてないし、

寺社のように派があるわけでもない。


魂の世界や、精神世界は、人間から

切り離せないし、

不思議な力を持つ人は、程度の差はあれ、

そこかしこにいらっしゃる。


説明のつかない事象も、たくさん起きる。

毎日。


でも、認められない。なぜなら、ここは

物質の世界だから。



生きていたくないなあ、と思ったこと、

何度もある。

でも、助けを求めてくださり、

喜んでくださる方々もいらっしゃる。


だから、生きます。



大っぴらに、あんまり、占い師!ヨロシク!

って言うつもりは、これからもありません。


一応、画家でもあるし。


一主婦として、大人しく高良にくっついて、

じーっとしているほうが、無難かもしれません。



性の話や、虐待、DV…話も、

最初は隠そうと思っていました。


思い出したくないこともある。ここでも、

書けてないことはある。


web上の鑑定は、時に生々しく、激しく、

恐ろしいものもあります。


犯罪。

人間の根源。

醜いとされるもの。闇。悪。


それらにも、応じたかった。

今は、有償でなくても

祈りの対象。

メールにて、助けての「声」をくださる方々。


私が、鑑定される側なら、

人生経験が浅い占い師は嫌だな。

年齢は関係ない。


占いの技術が卓越してるなら、いいけど。

霊視なり、星読みなり。


恋愛を出来ない、恋愛経験がない、

愛に傷付いたことがない人にも、

依頼はしたくないな。


人が嫌いな人にも、依頼はしたくない。

セックスが汚い、と思ってる人にも。


人を愛していない人には、

人を愛することを、叩き込みたい。


人を愛したら、全部うまく運ぶの。

だから、お母さんが最初に、愛を伝えてくれるんだよ。


お母さんに愛を、伝えてもらえなかったら…


広い世界に飛び出して、愛を探そう。


愛したら、愛してもらえるのよ。


これが魂の本質。

ここは、鏡の世界だ。

したことが、跳ね返る。





この、私の旦那様である高良との話。


少年期の高良は、自由な性に、罪の意識を持っていた。


性虐待のさなかにあった、少女期の私は、

たまたま、あらゆる性の形を、

見せられたり聞かされたり読まされたり、

触れさせられたり、で知っていた。


あまりにも変にならなかったのは、

変になってたかもだけど、

考えていたからだ。


なぜ、人はこうなるのか。

精神の歪む過程。

頭でも考えた。心で感じた。

さらには、霊視する魂だった。



高良の魂を、見つけて捕まえてしまったことは、

解放をしたかったからだ。

知能が高く、敬虔で、厳格で、清廉で、

「良い子」「正しい子」

でいなければならなかった、いるべきと信じていた高良。


神父になって、性は完全に封じ込め、神様に

仕えていたかもしれない、高良。

それもまた、正しい生きかた。

神様に仕えて、霊力、生命力を燃やす。



一方で、性の力は生きる力。

しぶとく、本能の力で。


私には、高良のことしか考えられない、

と思う時間が何度も何度もあったし、

私も、高良に囚われていたと思う。

子供の時も、大人になってからも。

ずっと、離れている時でも、高良の影、

生霊の吐息を感じていた。



快楽、だけではない深く浸透した、

体をとおして

魂を繋ぎ合う、重ね合わせるという体験を、

したことがある人、

何人、どれくらいいるだろう。

生きている間に。


それを知ったら、絶対的な愛を知ったら、

もう大丈夫だ。もう生きていける。

魂の喜び、魂の幸せだけで、毎日が流れる。



愛だけ。呼吸が、愛。

愛を吸って、

愛を吐く。


パートナーだけじゃなく、

他の生命を愛せる。



本当なら、体で伝えたい。

私は人を、異性同性関係なく愛するから、

あとは体を使った儀式ね。


傍目には、セックス教会だね、これじゃ。

ちょっと間違えたら黒魔術、悪魔教団になるかもね。


そもそも、性や魔術、宗教には

諸刃の剣な一面があります。




そんなのは、この世界では受け入れられない。良識とか。道徳とか。法律とかがある。


というか、私、余命宣告されてる病人よ。一応。



今言ったみたいな、布教をしている巫女も

います。男性もいます。

海外のシャーマンね。

日本にもいます。少数だけど。

若い内に、少しずつ実践してきたこと

でもある。


充君にしていたのも、そう。

彼の澱、凝り固まった怒りを解放していた。

それが、世で言う暴力に該当したけれど、

高良が仮に、今から訴えを起こしても

(しないでしょうけど)

充君とは、お互いに愛し合っていただけだと、言う。

だから…

本当の意味ではDVじゃない。

体が病んでいたから、心も弱まって、

私は充君への愛、儀式を、絶った。


高良の求め、愛のほうが、大きなものだった。



性解放運動な野望は、ヨーロッパでの、極秘な活動です。

私が動けない分、弟子でもある旦那様に、

やってもらおう。


(ってのは、半分ジョークとして。半分ね)




絵画、文章、音楽、要は芸術で、

愛を伝えるのが一番、理に適って素敵。


美しいと思います。



だから、そうしようと思う。



37才以降の物語は、

おひとり、おひとりの、ご想像に委ねても

いいなあ、と思っています。



誰もが、日々流れているはずの、

ささやかな幸福を余すことなく、

享受できますように。

感謝できますように。


大切な人を、慈しめますように。

大好きな人、隣に息づく人を、抱きしめられますように。


目一杯 愛されますように。

目一杯 愛を捧げることができますように。


愛だけで満たされて

愛を以て、生きて、歩めますように。



私達の呪文を読んでくださった方々、

共鳴、共振してくださった方々、


占室輪に

ご縁あり出逢ってくださいました方々。

愛しています。

有難うございます。




2018.10.18

輪々華




















wedding photo
wedding photo
(family photo)
with Takala
with Takala

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with all of my hearts

註釈:高良のHP side A “絶刻”に籠められた願いは、


祈祷師をしていた私の母が、

2018.3.11に、義理の父を連れて

同日に、近い時間に、天国に旅立ったこと

に由来しています。


義理の父は病死、母は検死しても原因不明の

不審死、ということでした。


母は、母の観点、価値観で義理の父を

愛していたのだと思います。


魂は、祈祷をやっているような人間なら、

自在に抜くことが出来ます。


(高良も、私も出来ます。)



愛を以ての、心中を

肯定も否定も出来ません。

その二人にしか、

真実はわからないからです。



※高良の少年時代の写真と、

現在の家族写真(加工が少なめなもの)は、

高良の希望により、

消してあります。


2018.10.27